【 JAARAで散歩】芸術としてのベンチ と ベンチとしての芸術 六本木・けやき坂へパブリックアートを見に行く

         

 今度の休みはどこかへ散歩に行こうかな。そんなとき、街角の芸術作品―パブリックアート―を見に行くのはどうでしょう。六本木のけやき坂には、ベンチのような作品がいくつか設置されています。「芸術的」なベンチもあれば、「普通のベンチ」に見えるけれどもこれぞ芸術!という作品も。アートの世界は奥が深いのを感じます。
 神宮前―青山―赤坂―六本木―麻布(JAARA)は歩くだけで楽しい街。目的があれば歩くのがいっそう楽しくなりますね。
※ JAARA(ジャーラ)は[神宮前―青山―赤坂―六本木―麻布]の街の連なりを指す造語です。

§ ほどよい高さと形

 六本木交差点から「いも洗い坂」を降り、テレビ朝日と六本木ヒルズの南側を通るけやき坂に入ります。北側の歩道を歩くと、まず初めに遭遇するのが、赤いくねくねしたオブジェです。
 

 
内田繁(うちだ・しげる)さんの「I Can’t You Anything But Love 愛だけを・・・」。恋人に告げたくなるような台詞がタイトルです。
 作者の内田繁さんは1943年生まれ。伝統的な感覚を生かした建築空間づくりで日本を代表するインテリアデザイナーです(2016年死去)。「ヨウジヤマモト」のブティックのデザインも手掛けたということです。
 この作品は、わき起こって高まり、揺れ動いて波打つ「なにか」を表しているように見えます。
 
 さて、そこから少し行くと、こんどはピンク色のオブジェが現れます。
 

 
 タイトルは「day-tripper デイ・トリッパー」。作者は「ドゥルーグ・デザイン(DROOG DESIGN) ヨルゲン・ベイとクリスチャン・オッペワル&シルヴァンv dヴェルデン(Jurgen Bay with Christian Oppewal and Silvin v d Velden)となっています。
 ドゥルーグ・デザイン(ドローグ・デザイン)とは、新しいデザインの指向につどうゆるやかな活動体とのことで、コンセプチュアル・デザインの先駆けとされています。作者のヨルゲン・ベイさんはその先駆者です。
 こう書いていて、コンセプチュアル・デザインがなんだかまったく分かりません。なので「おお、これはコンセプチュアルの傑作だねえ」などと言うわけにはいきませんが、椅子とテーブルがピンクの布で覆われているのは分かります。
 

 
 この作品も先ほどの「愛だけを・・・」もベンチとして使うのに、ほどよい高さと形をしています。「デイ・トリッパー」のほうは椅子の形が浮かび上がっていて、座るのに好都合。で、実際に座っている人もいました。

§ ちょっと見も、よく見ても、普通

 ピンクのオブジェの先の横断歩道で道を渡り、向かい側(南側)の歩道に行くと、ベンチがありました。
 

 
 「これはいくらなんでも普通に設置されたベンチだろう」と思い、「まあ、いちおう写真を撮っておくか」と撮影したところ、なんと、これも芸術作品でした。
 ジャスパー・モリスン(JASPER MORRISON)さんの「Park Bench パーク・ベンチ」です。英国人デザイナーのモリソンさんは「スーパーノーマル」というデザイン哲学を掲げています。「普通を超える普通」。それがもっとも素晴らしいという哲学で、無印良品のスプーンから路面電車の車体までデザインしている人気のデザイナーです。
 この椅子もちょっと見、「普通の椅子だなあ」と思ったわけで、私はモリソンさんのデザインにまんまとはめられてしまったわけです。とはいえ、よくよく見ても普通です。
 

§ けやき坂のアートのまとめ

 今回は、六本木のけやき坂にあるベンチのようなパブリックアートをご紹介してきました。なにげない街角の芸術の作者は、びっくり仰天のデザイナーでした。それが分かると見方も違ってきます。さて、六本木ヒルズにはいろいろなパブリックアートがあるようなので見に行きますか。きょうもいい一日になりそうです。
 
【 JAARAで散歩】パブリックアートを見る散歩
 ▽気鋭の書と大家の絵に圧倒される パブリックアートを見に明治神宮前<原宿>駅へ
 ▽有名彫刻家の作品を見に南麻布の有栖川宮記念公園へ
 ▽大画面の壁画の迫力 赤坂・六本木の地下鉄駅へ
 ▽スケールの大きなストリートアートを見に 北青山のブラジル大使館へ
 ▽ロアビルの囲いの壁面に現れた「kawaii」を見に六本木へ
 ▽若手アーティストの壁画を見に六本木へ