【皇室の話題】天皇の親任式は「みんなで決めたこと」の確認(2022年6月24日~30日)

         


 
 (この記事は2022年の6月についての記事です)
 天皇は最高裁長官の親任式に臨んだ。天皇は最高裁の長官を任命する。これは「国事行為」である。国事行為は「任命する」行為、つまり任命する書類に署名押印する行為なので、「親任式」は国事行為ではなく「国事行為に付随する行為」とされる。それを含めて、この手の国事行為はなぜ行われるのだろう。私たちにどんな「お得」があるのだろう。

¶ 国民の総意で選んでいる、ということを確認する行為

 「親任」とは天皇が直接任命すること。内閣総理大臣や最高裁長官などの辞令は「官記」と呼ばれ、天皇が官記を直接手渡して任命するのが「親任式」だ。大臣や最高裁判事については、天皇は「認証」する。認証される人は「認証官」。この任命式は、官記を内閣総理大臣が手渡す「認証官任命式」だ。この時、認証した天皇もその場にいる。いずれも皇居・宮殿「松の間」で厳かに行われる。
 国民がこの松の間の行事を見れば、天皇について「象徴をやっているなあ」と思うであろう。何でこんなことをやっているのか。昔からやっているからという理由と、現代の私たちにとってその方がいいから(「お得」だから)という理由があると思う。「お得」と感じるのは、首相や最高裁長官(三権の長)を「みんなで決めた」と確認できる。そこに意味があると思う。

§ 天皇が国の「最高の人」であることを演出

 この国事行為には、現代的な意味のほかに、天皇が昔からやっているからという理由があると思う。かつては高級役人の人事は「除目(じもく)」などといって天皇がやっていた(やることになっていた)。明治時代も最高級の役人は「勅任官」であり、天皇が決めることになっていた。
 戦後も天皇がそれと似たようなことをやらないと、「日本は戦争に負けても天皇が治める国であることに変わりはないんだ」と思いたい人たちから不満が出かねない。それで昔のようにやっている面があると思われる。天皇は「最高の人」なので、首相でも最高裁長官でも任命できるのだ―と思いたい人はそう思うことができるし、そう思いたくもない人に、そういう雰囲気を演出してみせることができる。

§ 天皇が国民の総意を象徴している

 この国事行為が現代の私たちにとっていい面(「お得」な面)があるのは、前述したように、首相や最高裁長官を「国民みんなで決めました」という雰囲気を演出することだ。憲法がこれを国事行為として天皇にやってもらうようにしたのはいいアイディアだと思う。
 実際には、首相は国会で投票があるし、最高裁長官は首相が了承して内閣が指名する。そういうプロセスを経ているのだが、そうとしても、その人が選ばれたのは、民主的な社会の中で私たちがルールに従って、総意によって選んだんだよねということを、天皇が官記を渡すことにより確認することができる。
 「おれはこいつがいい」「いやいやあいつがいい」と意見はいろいろある。あるんだけど、私たち全員が認めているルールに従った結果、その人になりました。だからその人は私たち全員が認めた人なんです、ということを確認して、私たちがバラバラにならないようにする。国民として統一感を得るための象徴的な場面で、国民の代わりに振る舞う役割を天皇にやってもらっているというわけだ。

§ 偉い人でなくて私たちがやっている

 皇居・宮殿「松の間」で、天皇が内閣総理大臣に官記を手渡す。この時、「天皇という偉い人が手渡している」と考える必要はなんにもない。「私たちに代わって天皇が手渡している」と思って眺めるのが「正しい」やり方だと思う。私たちの総意により手渡している。私たち全員の意見が一致しているわけではないが、私たち全員が認めるルールに従うとこの人になる、ということを示すため、天皇にそれをやってもらっている。
 ただ個人的に、どうしても「その人」が任命されるのはいやな場合がある。その時は、私たち全員が認めたルールに従って進んだプロセスのどこかに変化を生じさせるか、あるいは、ルールそのものを変えるか、そのどちらかしかない。そういう気持ちで眺めるのもまた、「正しい」といえば「正しい」やり方であろう。
 (2023.6.24 皇室王室勉強家・以出江 凡)

¶ 日誌

天皇 皇后 愛子内親王

▽6月24日(金曜)
【天皇】戸倉三郎最高裁長官の親任式。続いて最高裁判事や検事総長ら7人の認証官任命式(皇居・宮殿「松の間」)
▽6月27日(月曜)
【天皇・皇后】学士院授賞式に出席(東京都台東区の日本学士院会館)
▽6月30日(木曜)
【天皇】半年に一度のおはらい儀式「節折(よおり)の儀」(宮殿「竹の間」)

秋篠宮家

▽6月24日(金曜)
【佳子内親王】日本工芸会副理事長で、重要無形文化財「蒔絵」保持者の室瀬和美氏から日本の漆芸の歴史や技法などについて説明を受けた(東京都港区の赤坂御用地にある赤坂東邸)
▽6月29日(水曜)
【佳子内親王】日本乳癌学会の創立30周年記念式典に出席(横浜市のホテル)
▽6月30日(木曜)
【秋篠宮・同妃】行政相談委員制度60周年記念式典に出席(東京都新宿区のホテル)

宮家

▽6月27日(月曜)
【三笠宮の百合子妃】白内障手術で28日から入院と発表されたが、暑さによる疲れのため延期
▽6月30日(木曜)
【常陸宮】総裁を務める発明協会の全国発明表彰式に出席(東京都港区のホテル)
【三笠宮の寛仁親王の瑶子女王】皇族方や国民のためのおはらいの儀式「大祓(おおはらい)の儀」に参列(皇居・宮中三殿に付属する神嘉殿前庭

一般

▽6月26日(日曜)
【英王室】チャールズ皇太子がカタール元首相から現金受領か。タイムズが報道

¶ 関連サイト

宮内庁HP

【天皇皇后両陛下のご日程 令和4年(4月~)】
【秋篠宮家の御日程 令和4年(4月~)】

メディア

皇室ウイークリー 産経新聞
皇室7days 朝日新聞DIGITAL

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