【皇室の話題】天皇の「お得感」の歴史的な変遷とは(2023年3月31日~4月6日)

         


 
 天皇は「お得」ならいてほしいし、「迷惑」ならいてもらわなくていい。天皇は現在、「お得」なことがあるのでいてもらっているのだが、そもそも明治の頃に天皇制度ができたのは、それが日本の国と国民にとって「お得」だったからだ。その「お得」のありようは、時代とともに変遷している。そのことを少し考えたい。
 

¶ 「お得感」の過去と現在

 天皇が存在する「お得感」は時代とともに変遷している。歴史的な状況による必要性を背景に構成されてきた。構成要素となった考え方の多くは現在では通用しないが、残っているものもある。天皇の在り方、天皇についての考え方は、今後も変遷していくだろう。次の時代をイメージしていきたい。

§ 明治の時代に必要とされた「お得感」とは

 天皇の「お得感」が発揮されたのは、明治維新の頃だった。それはとても強烈な「お得感」だった。
 日本思想史学者の安丸良夫さんは、私たちが現在、天皇制と聞いて思い浮かべるのは、実質的には明治維新の頃、日本の近代化の過程で作りだされたものだとする。いってみれば、近代天皇制は「偽造された構築物」だ。
 なぜそんなものがつくられたかというと「お得」だったからだ。「お得」どころか絶対に必要だった。
 安丸先生は近代天皇制の基本概念を「仮に」として4つ挙げている。
 ①「万世一系の皇統」に集約される、階統性秩序の絶対性・不変性
 ②祭政一致
 ③天皇と日本国による世界支配の使命
 ④文明開化の先頭に立つカリスマ的政治指導者
 明治の天皇は、神代から続く万世一系の神聖な存在とされ、国の制度の上では統治権の総攬者と位置づけられた。天皇の威光による「八紘一宇」というキャッチフレーズもあった。鹿鳴館を建てて推し進めた西欧化の先頭に立ったのは、洋装した明治天皇、ドレスを着た奥さん(昭憲皇太后)だった。
 このような近代天皇制は、内外の憂患、とくに外国からの圧力が強まった事情を背景にしている。日本は国際社会に出て行かなくてはならなくなったが、出て行ったら日本の国の体制そのものが土崩瓦解してしまうのではないか。そんな強烈な危機意識の中で生み出された。
 その「お得感」は何かというと、
 (1)秩序の絶対性・不変性が認識されることで世の中が安定し、国民が統合されて強い国力を発揮できる
 (2)知識・技術に優れた外国を目の当たりにした日本人が「日本は神の国なんだ。外国よりも優れているんだ。世界の支配者になる国なんだ」というプライドを持つことができ、団結して困難に立ち向かえる
―という、当時としては絶対に必要な「お得感」だったのだ。

§ 戦後の「お得感」の変更

 国難に立ち向かった結果、日清、日露の戦争で成果を収め、国際社会に華々しくデビューすることができた。だがその後、太平洋戦争で壊滅的な敗戦を迎えてしまう。
 天皇のために亡くなった人がたくさんおり、「天皇ってどうよ」という考え方も広がり、天皇の位置づけを変更せざるを得なくなった。
 さまざまな考えがあるなかで、それまでとは別の在り方を提唱した社会主義運動家の佐野学さんは戦後すぐの頃、民衆が天皇制を支持するポジティブな感情について指摘している。それは何かというと、
 ①国家的独立を表徴しているとする感情
 ②世俗道徳の中心をなす家族主義的感情
 ③歴史を愛する感情
 ④原始共産主義(完全社会)を憧憬する感情
―である。(河西秀哉『近代天皇制から象徴天皇制へ』)
 ここに来ると、天皇の存在の「お得感」は
 (1)日本の歴史を象徴していて、日本はほかの国ではないということを実感できる
 (2)日本人は道徳的に優れ、家族のようにして一つになっていることを実感できる
 (3)現在は不満の多い世の中だが理想的な世界もあるんだ、と実感できる
―ということになる。

§ 現代では必要ない「お得感」

 明治の時の「お得感」は、いまではほとんど必要がない。
 現代では、外国に引け目を感じないようにする必要がほとんどない。日本が「神の国」だと意識して西洋に対抗する必要がない。「八紘一宇」なんてのは荒唐無稽な話である。
 「万世一系」の「階統性秩序の絶対性・不変性」という点も現代では必要に乏しい。民主主義の国民主権から考えれば、天皇の存在は憲法違反という考え方もある。必要がないというより、あってほしくない考え方で、「お得」というより「迷惑」だ。
 「家族のような結び付き」を実感する「お得感」もあまりない。この際の「家族」というと、お父さんが「家長」として君臨しているイメージだ。恩恵をもたらしてやってるんだから素直に従え。君に忠に親に孝に…という観念を連想させる。もはや「お得」ではないし、ジェンダーの自由が言われている中では「迷惑」だ。

§ 現代に残存する「お得感」

 ただ、かつての「お得感」の基盤になっている考え方は現代に残存している。
 いまでも「万世一系」という考えを持つ人はそれなりにいる。その人たちの「お得感」は何だろう。「日本は世界最古の家系である天皇を戴いており、外国より優れている」という優越感かもしれない。
 「優れている」とまではいわないにしても「外国とは違う」という日本の独自性を確認する満足感があるかもしれない。というのも、天皇以外に「これが日本だ」と象徴するものは見当たらない。
 天皇でなくて憲法に着目し、「日本は戦争放棄という世界に稀な条項のある日本国憲法を持っている。すごいでしょ」と独自性を確認できれば、天皇に頼る必要がない。だが、憲法の改正を目指す人たちがいる。また、日本国憲法は「日本民族の歴史」を象徴しているとは言い難い。民族の歴史を象徴する存在は、天皇くらいしか見当たらない。
 「家族的な一体感」を重視する人もいるだろう。その際の家族は「父が子より、子が孫よりも偉い」という階統性が含まれている。そうした秩序が、家族以外の場面でも保たれている方が、世の中が安定する「お得」があると考えるのだろう。もちろん現代では、それとは別の考え方が存在する。

§ 現在の天皇の「お得感」

 「日本を象徴する人」が存在することは、現在、一定の局面で「お得感」があると思う。政治の決定であれ、社会改革の推進であれ、国家的な事柄を国民全体として認識する際に「お得」だし、外国と交際する際に「日本を象徴する人」がいるほうが「お得」なことがある。
 また、天皇は日本の歴史、日本の文化を抱え込んでおり、それらを考える結節点にもなる。
 天皇の活動の個々のやり方が現在にふさわしいかをどうかを考えつつ、さしあたり、「日本の象徴」でいてもらうことは「お得」だろう。
 一方で、天皇の存在が「日本が神の国」的な考えの基にならないようにしたいし、「身分は絶対で不変だ」という考えの基になってもらうのはまっぴら御免だ。
 天皇の在り方、天皇についての考え方は、時代によって変遷している。ということは、今後もおそらく変遷していく。
 どのようならもっと「お得」になるか。天皇の周辺に生じる社会意識に気を付けて、何が「お得」で何が「迷惑」なのかをよく見極めながら、一歩進んだ時代をイメージしていきたい。
 (2023.4.11 皇室王室勉強家・以出江 凡)

¶ 日誌

天皇 皇后 愛子内親王

▽4月5日(水曜)
【天皇・皇后・愛子内親王】静養のため、栃木県にある御料牧場に入った。数日間滞在する。一家が都外で静養するのは2019年8月に那須御用邸付属邸(栃木県那須町)に滞在して以来、約3年半ぶり
▽4月6日(木曜)
【天皇・皇后】天皇が6月後半にもインドネシアを訪問する方向と松野博一官房長官が午後の記者会見で明らかに。皇后については体調を踏まえて検討。「できれば本年6月後半にも、天皇陛下にインドネシアを御訪問いただく方向で、今後、所要の調整を行ってまいります。なお、皇后陛下に御一緒いただくかについては、今後の皇后陛下の御体調を踏まえて検討することとなります」
 
令和5年4月6日(木)午後 | 官房長官記者会見 | 首相官邸ホームページ (kantei.go.jp)
 

秋篠宮家

▽4月1日(土曜)
【紀子妃】在日外国人に対して電話での無料カウンセリングを行う「東京英語いのちの電話(TELL)」の50周年記念式典に出席(東京都港区の駐日イタリア大使公邸)
▽4月2日(日曜)
【佳子内親王】第24回全国高校女子硬式野球選抜大会の決勝戦を観戦(東京都文京区の東京ドーム)

宮家

▽4月1日(土曜)
【高円宮の久子妃】1日付で日本バレーボール協会の名誉総裁に就任
【三笠宮家の彬子女王】1日付で古美術品の鑑賞会などを開催している「国華清話会」(東京)の名誉会長に就任
【三笠宮家の瑶子女王】1日付で「インクルーシブデザインネットワーク」(東京)の名誉顧問に就任。多様性ある社会づくりに取り組むNPO法人
▽4月2日(日曜)
【常陸宮】午前に東京都渋谷区の日本赤十字社医療センターに入院。3月に尿管結石を破砕する手術を受けて術後の経過は順調だったが大事を取った
▽4月4日(火曜)
【常陸宮】尿路感染症と診断された。発熱の症状で2日から日本赤十字社医療センター(東京都渋谷区)に入院中で、しばらく入院予定

宮内庁

▽4月1日(土曜)
▼皇室の情報発信を強化するため、新たに「広報室」を設置。室長には警察庁出身の藤原麻衣子(ふじわら・まいこ)氏(44)が就任。宮内庁ホームページ(HP)の刷新、交流サイト(SNS)の活用などを検討する
▽4月2日(日曜)
▼皇居で3月25日から始まった乾通りの一般公開が終了。9日間の期間中、約18万人が訪れた

一般

▽4月3日(月曜)
▼奈良市の平城京跡で奈良時代前半の大型掘っ立て柱建物跡が見つかったと教育委員会が発表。日本書紀を編さんした舎人親王(676~735年)の邸宅とする説を補強する発見
▽4月5日(水曜)
【英王室】チャールズ国王夫妻の戴冠式の招待状を公開。「国王チャールズ3世と王妃カミラの戴冠式」と記され、カミラ王妃の称号として、公式の場で初めて「クイーン(王妃)」が用いられた。国王の即位後しばらくは、エリザベス2世の「クイーン(女王)」と区別するため、王妃の称号は「クイーン・コンソート」とされてきた。戴冠式が「クイーン」に切り替える適切な機会と判断された
 

¶ 関連サイト

宮内庁HP

【天皇皇后両陛下のご日程 令和5年(1月~)】
【秋篠宮家の御日程 令和5年(1月~)】
【天皇皇后両陛下のご日程 令和5年(4月~)】
【秋篠宮家の御日程 令和5年(4月~)】

メディア

皇室ウイークリー 産経新聞
皇室7days 朝日新聞DIGITAL

これまでの【皇室の話題】

▽皇室の生きづらさとは(2023年4月7日~13日)
▽天皇の「お得感」の歴史的な変遷とは(2023年3月31日~4月6日)
▽天皇・皇室についてもやもやした時に考えてみること
▽愛子内親王の結婚報道で迷惑するのは誰か(2023年3月17日~23日)
▽天皇、皇族の行動を決めるのは前例と理念(2023年3月10日~17日)
▽天皇は男系男子でなければだめなのか(2023年3月3日~10日)
▽国際関係での皇室の「お得感」とは(2023年2月24日~3月2日)
▽皇室の存在の「お得感」とは何か(2023年2月17日~23日)
▽皇室の情報発信 何を伝えるのか(2023年2月10日~16日)
▽あるべき姿、役割をどうとらえるのか(2023年2月3日~9日)
▽佳子内親王が願う「幅広い選択肢を持てる社会」(2023年1月27日~2月2日)
▽愛子内親王の和歌に注目集まる(2023年1月20日~26日)