天皇は、東京の荒川と旧中川を結ぶ「荒川ロックゲート」(東京都江戸川区)を視察した。高低差のある川同士での船の往来を手助けする閘門(こうもん)である。天皇は「水問題」に関心があり、「ライフワーク」などと称される。それが私たちにどんな関係があるか気になるが、その前に、天皇の活動は私たちとどんな関係があるのかを考えてみたい。
¶ 天皇の活動の裏付けを考えておきたい
天皇、皇族はさまざまな活動をしている。首相を任命するなどの国事行為もあるし、先日の「荒川ロックゲート」視察などの私的活動もある。その行為はそれぞれの場面で天皇の存在を国民に印象付け、国民の天皇観・皇室観だけではなく、社会の在り方への見方、世の中への見方にも影響を与えている。国事行為は憲法に定められているが、それ以外は裏付けがあいまいだ。これを日ごろから考えていたい。私たちの幸せのために。
§ 天皇の行為の3分類される
天皇の活動は通常、3つに分類される。政府、皇室法学者などで多少の違いはあるが、大まかな分類は一緒だ。「国事行為」「公的行為」「その他の行為(私的行為)」の3つだ。
国事行為は、首相や最高裁長官の任命、法律・政令・条約の公布、国会の召集、衆議院の解散など、国の統治行為の根幹に関わっている。
公的行為は幅が広い。2010年の政府見解は「天皇が象徴としての地位に基づいて、公的な立場で行われるものをいう」としている。
全国植樹祭に行くのは公的行為、エリザベス女王の葬儀で英国に行ったのも公的行為。ニュースで目にする天皇の活動の大半は、この公的行為だ。
それ以外が「その他の行為」。企業の視察、ステージの鑑賞は産業、文化を奨励する活動だが、公的な性格が薄いとその他の行為に分類される。純粋な私的行為もある。
天皇の公的行為についての政府見解 – Weblio辞書
§ 行為のそれぞれに意義が生じている
公的行為は私たちに関係がないかというとそうではない。植樹祭などは国の要人が出席し、社会的な機運を醸成しようとする国民的な行事だ。そこに天皇が一役買っている。
私的活動は私たちに関係がないかというと、これも大いに関係がある。
私的活動で大きなものに「宮中祭祀」がある。祭祀を行っていることに天皇の存在の意義を見出す人は少なくない。
水問題はどうか。単なる趣味ともいえるが、これも私たちに投げかけるものがある。
天皇が水問題に関心を抱いたのは、ネパールを訪問した時に、女性や子どもが水を汲んでいる現場を目撃したのがきっかけとされる。
長い道を歩いて来た女性と子どもたちが水汲み場を取り巻いて、チョロチョロと流れる水が水瓶にたまるのを辛抱強く待ちながら眺めている。その場面には、ジェンダーの差別、子どもの貧困、衛生、労働、インフラの状況、経済の格差など、さまざまな課題が凝縮されている。
天皇の水問題への活動を通じ、私たちが現に直面する課題に気付かされることがある。
§ 裏付けがあいまい
国事行為は内閣の助言と承認に基づいて行われる、公的行為とその他の行為の一部については内閣が責任を負う。だが、純粋な私的行為については、内閣は責任を負わない。
国事行為は憲法に定められている。公的行為について定めた法律はない。2010年の政府見解が「憲法上明文の根拠はないが、象徴たる地位にある天皇の行為として当然認められる」「内閣は、天皇の公的行為が憲法の趣旨に沿って行われるよう配慮すべき責任を負っている」としているのがかろうじての明文の根拠づけだ。
では、配慮すべき責任を負う政府は、何らかの基準を設けているのだろうか。見解は「様々な事情を勘案し、判断していくべきものと考える」としており、一概には決められない。
決められないにしても、それを検証する機会があるのだろうか。その機関、場面は、政府には見当たらない。
私的行為については、法律、行政上の制限はなにもないといっていいだろう。公的行為、私的行為については、活動の裏付けにあいまいな面がある。
§ 日ごろからよく考えていたい
いまの天皇はとても常識的な人物だと思う。天皇は、国民を苛むことにつながるような非常識なことをしないという見識、判断力があると思うし、天皇がそれに悖る行動をした時に批判する力が国民にあると思う。
今はある。だが将来はどうだろうか。天皇の言動が、あるいは天皇を利用した政府の執政が国の方向性を歪めていって、私たちを不幸にすることが起こらないといえるだろうか。私たちの過去の歴史に照らして。
天皇の活動をどこかで掣肘することができる用意をしておかなくていいのだろうか。法律でも、社会的な意見の表出機会でもいい、それができる仕組みが要るのかどうか。今のうちに、日ごろからよく考えていたい気がする。
(2023.5.28 皇室王室勉強家・以出江 凡)
¶ 日誌
天皇 皇后 愛子内親王
▽5月22日(月曜)
【天皇】東京都江戸川区を訪れ、荒川と旧中川を結び船の往来を手助けする閘門(こうもん)「荒川ロックゲート」を船上から視察。近くの大島小松川公園にある旧小松川閘門や、水運の歴史に関する資料などを展示する江東区中川船番所資料館を見て回った
▽5月24日(水曜)
【天皇・皇后】太平洋戦争で犠牲になった6万人を超える商船や漁船の船員を慰霊するため、神奈川県横須賀市の観音崎公園にある「戦没船員の碑」を訪れ、第50回戦没・殉職船員追悼式に出席。参列した遺族らと共に黙とうをささげ、花束を手向けて拝礼
▽5月25日(木曜)
【天皇】ラオスのトンルン国家主席と会見(皇居・御所)
ラオス国家主席と会見 天皇陛下、皇居・御所
秋篠宮家
▽5月23日(火曜)
【秋篠宮】総裁を務める日本動物園水族館協会の総会に出席(山口県宇部市のホテル)
【佳子内親王】全国都市緑化祭の式典出席などのため宮城県入り。石巻市の石巻南浜津波復興祈念公園の「祈りの場」に供花。佳子内親王が東日本大震災の被災地を単独で訪問するのは初めて。「みやぎ東日本大震災津波伝承館」や、震災遺構として保存された門脇小を見て回り、「来てみないとやはり分からない。改めて地震や津波の恐ろしさを知ることができました」と述べた
▽5月24日(水曜)
【秋篠宮】動物の行動を本来の姿に近い形で観察できる「生息環境展示」を採用している「ときわ動物園」を視察(山口県宇部市)、同日帰京
【佳子内親王】全国都市緑化祭の記念式典に出席し、「さまざまな困難の中、日々を重ねてこられたお一人お一人に、深く思いをいたすとともに、復興に力を尽くしてこられた皆さまに心から敬意を表します」とあいさつ(仙台市の仙台国際センター)、その後、青葉山公園の大花壇を視察
一般
▽5月23日(火曜)
【英王室】公務引退後に家族と米国に移住したヘンリー王子が、英国に滞在する際の私費による警察の警護の依頼を政府に拒否され不服申し立てをしていたことについて、英高等法院は23日、王子側の求めを退けた。「公務員である警察を裕福な人が警護目的で『買う』のは不適切だ」と政府が拒否したことに不合理はないと高等法院は判断した
▽5月24日(水曜)
【英王室】英BBC放送は24日、エドワード王子の妻ソフィ妃の警護をしていたバイクにひかれ、重体となっていた81歳の女性が死亡したと報じた。エドワード王子はチャールズ国王の弟。事故は10日にロンドンで起きた
¶ 関連サイト
宮内庁HP
【天皇皇后両陛下のご日程 令和5年(4月~)】
【秋篠宮家の御日程 令和5年(4月~)】
メディア
皇室ウイークリー 産経新聞
皇室7days 朝日新聞DIGITAL
これまでの【皇室の話題】
▽上皇、上皇后が皇室に存在する意味とは(2023年5月12日~18日)
▽英国と日本、神さまと王権との関係の違いは(2023年5月5日~11日)
▽天皇・皇族を縛る〝掟(おきて)〟とは(2023年4月28日~5月4日)
▽雅子皇后の苦悩とは何か、どこから来るのか(2023年4月21日~27日)
▽短期と長期 どちらがほんとの「お得」なの?(2023年4月14日~20日)
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▽天皇、皇族の行動を決めるのは前例と理念(2023年3月10日~17日)
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▽国際関係での皇室の「お得感」とは(2023年2月24日~3月2日)
▽皇室の存在の「お得感」とは何か(2023年2月17日~23日)
▽皇室の情報発信 何を伝えるのか(2023年2月10日~16日)
▽あるべき姿、役割をどうとらえるのか(2023年2月3日~9日)
▽佳子内親王が願う「幅広い選択肢を持てる社会」(2023年1月27日~2月2日)
▽愛子内親王の和歌に注目集まる(2023年1月20日~26日)