東京ミッドタウンの地下1階の通路「メトロアベニュー」に、今年も「TOKYO MIDTOWN AWARD」の応募作が登場しました。アートコンペのファイナリストの作品です。日本の、東京の、ミッドタウンの一角からメッセージを発信する作品です。都会人が現代社会で覚えるさまざまな感覚にアプローチしているようです。(2023.9.24)
神宮前―青山―赤坂―六本木―麻布(JAARA)は歩くだけで楽しい街。目的があれば歩くのがいっそう楽しくなりますね。
※ JAARA(ジャーラ)は[神宮前―青山―赤坂―六本木―麻布]の街の連なりを指す造語です。
今いる場所の地下
いちばん地下鉄の駅側には、細長いディスプレイが3本並んで立っています。
タカギリヲン(Riwon Takagi)さんの『TOKYO ELEVATION Type 0』(TOKYO ELEVATION Type zero)です。
左右のディスプレイで指標のような点灯が動き、真ん中の区画にはフギュアが現れます。
作品紹介のパネルに次のようなコメントがありました。
私は普段見えない足元の下、地面には物語のようなものが秘められていると考えます。
この作品は東京ミッドタウンを起点に、3つの地点を選びその地盤を映像によって再現し、
疑似的に見比べられるようにしたものです。
この作品を観ている人が今、立っている地面について思いを馳せられるような作品にしたいと考えています。
地盤の再現なのですね。ううむ、私はピンと来ませんでした。ずっと長いこと眺めていると何か見えてくるのかもしれません。
タイパされた人々の動き
その斜向かいにあるのが、ナカミツキ (Mitsuki Naka)さんの『タイパする輪郭線』(Outlines of “Taipa” Freaks)です。
奥のスクリーンと手前のディスプレイの映像が次々と変わっていきます。
それと周囲のオブジェが重なり合います。
次のようなコメントがありました。
タイパを重視した生き方をする都市の人々の動きを倍速文化とキーワード検索からヒントを得て制作しています。
様々な媒体で出力する圧倒的な情報量の積層表現は、タイパされた人々の動きを視認することができます。
動きと価値観の変化を見つめ、各個人が生活に置き換えて思考するきっかけになるのだと考えます。
「タイパ」はこのごろよく耳にする言葉です。現代の情報過多、情報消費の形の変化を感じさせる行動様式です。
でも、それをアウトライン化するとはどういうことなのでしょう。見た人が思考するきっかけになるには、ちょっと難しすぎるかも。時間がないので、ゆっくり見ているわけにもいきませんし。
ナカミツキさんというと、麻布警察署跡地のフェンスに作品が掲げられていました。以前の記事でご紹介しました。
■六本木アートナイトの名残の松田ハルさんとナカミツキさんの作品を見に行く
フェンスの作品はこんなでしたので、作風が違うように感じます。
iPhone、iPadに指で描くという作品に息吹の躍動を感じました。
言葉から解放された物語
いちばん乃木坂寄りにあるのが、Liisaさんという人の『明日は遊園地へ行こうね』(Let’s Go to the Amusement Park Tomorrow)です。
この時は、通路を乃木坂方向から歩いてきたので、この作品が最初に目に入ったのでした。
ひと目見て「これは何かあるぞ、何だろう(おもしろそうだ)」と感じさせます。
Liisaさんは1999年生まれ、ハンガリー出身。東京芸大大学院修士課程在学中ということです。
次ようなコメントがありました。
連絡通路の真ん中に寝ている子供。近寄ると呼吸していることが見てとれる。その隣に、絵の中の子どもと同じ誕生日の帽子が落ちている。それは絵と何か関連があるのだろうか。
疑問から始まる言葉のない物語。過去と現在、現実空間と架空の世界、静と動、懐かしさとちょっとした違和感、没入感と疎遠感。様々な時空を往還しながら」多様な解釈を想像できる空間に挑んだ。
確かに、この子供に近づくと、かすかに呼吸しているのです!
上からのぞき込むと電気の配線がつながっていました。
子ども前に赤い帽子があります。
誕生日のお祝いの帽子でしょうか。
上にある校庭を描いたような絵に目を移すと、
赤い帽子をかぶった子どもがいます。
通路にうつぶせに倒れた子どもと、絵の中の赤い帽子の子どもはどんな関係なのでしょう。どうして赤い帽子が倒れた子供の前にあるのでしょう。
画面の鳥たちはなぜ、ヒモを地面に垂らしているのでしょう。ナスカの地上絵のような校庭の絵は何を表しているのでしょう。
考えているうちにうっすらとゾクゾクしてきます。
コメントにある「言葉から解放された物語」ということであれば、多くの絵画はそれを感じさせます。
ただ、絵画を鑑賞する時、美術評論家に「この意匠は○○を表徴することはよく知られていて……」とか、「この構成には歴史的な経緯があり、そこから当然に連想されるのは……」とかなんとか言われると、自分が「正解」を見て取れないと恥ずかしい気持ちになります。
ところが、この作品には「正解」がありません。見る人が勝手に想像し、うろつき回る楽しみがあります。
テーマは自由、サイトスペシフィックな
TOKYO MIDTOWN AWARDはデザインコンペとアートコンペがあり、アートコンペのテーマは応募者の自由として次のように書かれています。
テーマを自由に設定し、都市のまん中から世の中に、そして、世界に向けて発信したいメッセージをアートで表現してください。
「サイトスペシフィック」というのは、「置かれる場所の特性を生かした」ということのようです。
つまり、「東京ミッドタウンのメトロアベニューに置かれ、そこを通る人が見るのにふさわしい」、あるいは、「日本の東京という都市に置かれ、そこに暮らす人、そこを訪れる人が見るのにふさわしい」ということになります。
「今いるここは、地上と地下を通じてどんな場所なのかと考えている人」、「あふれる情報を処理する時間に追われているなあと感じている人」、「日常を離れた想像の場面を見て回りたいなあと思っている人」にふさわしい作品ということでしょうか。
■TOKYO MIDTOWN AWARD|デザイン & アート (tokyo-midtown.com)
■アートコンペ概要|アートコンペ|TOKYO MIDTOWN AWARD (tokyo-midtown.com)
■サイト・スペシフィック | 現代美術用語辞典ver.2.0 (artscape.jp)
東京ミッドタウンのアートコンペ作品のまとめ
東京ミッドタウンにはいろいろなアートがあります。コンペでもいろいろな作品が登場しました。この建物、このエリアそのものがアートだともいえそうです。面白いですね。歩くといろんな発見があります。きょうもいい一日になりそうです。
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