天皇、皇后が派遣先から帰国した青年海外協力隊員と懇談した。2人は帰国隊員だけでなく、派遣される隊員とも会う機会がある。この懇談を始めたのは、当時皇太子夫妻だった上皇夫妻だ。そこには、将来を担う世代と交流したいという思いが、当時まだ30代だった夫妻にあったのだろう。
¶ 協力隊との交流に上皇夫妻の取り組み方が現れている
青年海外協力隊の懇談は、上皇夫妻が始めて現在の天皇、皇后に受け継がれている。この行事には、未来を担う世代と交流する、その交流をずっと継続する、それにより、自らの価値観を示す、という活動への取り組みに対する上皇夫妻の姿勢の考えが示されていると思う。
§ 第1回から懇談
上皇夫妻が青年海外協力隊と初めて会ったのは、皇太子夫妻時代の1965年12月21 日のことである。この日、夫妻はラオス、カンボジアに派遣される第1次隊の隊員9人と、東京・元赤坂の東宮御所(東宮御所、現在の仙洞御所)で懇談した。
上皇はこの日のことを「今日から見ると、実にささやかな門出でありました」と振り返っている。(1995年10月26日、青年海外協力隊発足30周年記念式典でのスピーチ)
この年の4月、日本青年海外協力隊が発足している。
上皇夫妻が派遣隊員と会うことになった詳しい経緯はわらないが、天皇が「献身的にボランティアの精神で海外へ行く若者に心を寄せられた」との関係者の消息がある。
実際、上皇夫妻と若い世代との交流する機会は複数ある。将来を深謀遠慮する上皇の見通し、先見性を考えると、未来を担う世代とのつながりを大事にする活動に取り組もうしたことはうなづける。
■JICA報告書 年表
§ 始めたらずっと継続する
派遣隊員との会う行事は、事業の30周年を機に天皇、皇后(当時皇太子夫妻)に引き継いだ。それまでの懇談は103回に及んだという。その後も帰国隊員との懇談を続けた。始めたら継続するというのが上皇の基本姿勢である。「慎重に考えて決め、決めたら実行する」という性格だと側近が語っている。
青年海外協力隊との懇談と同じように、上皇夫妻は1964年、東京五輪に続いて開催された第1回の東京パラリンピックに関わった後、翌年から始まった全国身体障害者スポーツ大会(その後、全国障害者スポーツ大会)に毎回出席した。即位後は現在の天皇、皇后に引き継いでいる。
§ 価値を示す
皇室の行事として、始めたら続けるのは当たり前といえば当たり前だが、そのことにより、皇室のもつ価値観、「だれを応援しているのか」を示すことにもなる。
例えば、昭和天皇と上皇では、国民との接し方が違い、当初は批判もあったが、上皇はやめなかった。周囲の人からすると「天皇陛下はガンコ」らしいのだが、その背景には、一定の新年のようなものがあるのだろう。
障害者スポーツは、パラリンピックが始まった頃とはまったく違った状況になっている。社会の変化が生まれていない当時から、これが当たり前になると、上皇が見通していたと言えないこともない。
青年海外協力隊との懇談はあまり知られていないし、それが社会にどれほどの影響を与えているかといえば、ほとんどないかもしれない。だが、そのように日本人が海外へ出て、さまざまな活動をしていることは、有効的な国際関係の一つの基盤になっていると思われる。活動が国際関係で重要な役割を果たすことが人々に知られる機会がいずれ訪れるかもしれない。それを待つことなく、自ら感じ取った意義を信じて、たゆまず継続するのが皇室の姿勢ということなのだろう。
(2023.10.11 皇室王室勉強家・以出江 凡)
¶ 日誌
天皇 皇后 愛子内親王
▽9月26日(木曜)
【天皇・皇后】派遣先から帰国した青年海外協力隊員ら8人と懇談(皇居・御所)
秋篠宮家
▽9月22日(金曜)
【秋篠宮・紀子妃】(ベトナムを公式訪問中)首都ハノイの国家主席府でボー・バン・トゥオン国家主席主催の昼食会に出席。ハノイにある日本人学校で小中学生と交流、日本がODAで支援する日越大学を訪問。宿泊先ホテルで、留学生や技能実習生として日本で暮らした経験があるベトナム人、両国間で活躍する若者ら約50人と懇談。夜はオペラハウスを訪れ、外交関係樹立50周年を記念して作られたオペラ「アニオー姫」を鑑賞
▽9月23日(土曜)
【秋篠宮・紀子】(ベトナムを公式訪問中)秋篠宮はハノイの自然科学大学生物学博物館を視察。紀子妃は障害者雇用に力を入れている企業を訪問、ホテルで日本の絵本をベトナム語に翻訳し出版しているグループと懇談。夫妻は午後、中部ダナンに移り、世界遺産に登録されているホイアン旧市街を巡回
【佳子内親王】第10回全国高校生手話パフォーマンス甲子園出席などのため鳥取県入り。1泊2日の日程。この日は鳥取市西郷地区の「いなば西郷工芸の郷」を視察
▽9月24日(日曜)
【佳子内親王】新型コロナウイルスに感染。宮内庁が発表した。全国高校生手話パフォーマンス甲子園(鳥取市)への出席は取りやめ。28日まで滞在先の鳥取市のホテルで療養
▽9月25日(月曜)
【秋篠宮・紀子妃】ベトナム公式訪問を終え、帰国
▽9月26日(木曜)
【秋篠宮・紀子妃】ベトナム公式訪問を終え、天皇、皇后にあいさつ(皇居・御所)
宮家
▽9月22日(金曜)
【三笠宮の寛仁親王の信子妃】入院中の慶応大病院(東京都新宿区)で、骨折した左足くるぶしの手術を受けたと宮内庁が発表。同日午前に全身麻酔で手術を受け、骨折部分をチタンで固定した。無事終了した
一般
▽9月27日(水曜)
【スペイン王室】スペインの下院で27日、総選挙を受けた新政権樹立に向け首相候補の信任投票。第1党の中道右派、国民党のフェイホー党首は信任に必要な過半数を得られず不信任。29日の再投票でも否決なら、国王は第2党の社会労働党率いるサンチェス現首相を首相候補に指名するとみられるが、サンチェス氏も信任されなければ再選挙
¶ 関連サイト
宮内庁HP
【天皇皇后両陛下のご日程 令和5年(7月~)】
【秋篠宮家の御日程 令和5年(7月~)】
メディア
皇室ウイークリー 産経新聞
皇室7days 朝日新聞DIGITAL
【皇室の話題】
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