【皇室の話題】短期と長期 どちらがほんとの「お得」なの?(2023年4月14日~20日)

         


 
 天皇や皇族は式典に出席したり、海外からの要人に会ったりといろいろな活動をしている。こうした活動は私たち国民の「お得」につながっていると考えられる。(「迷惑」につながるのなら、やめてもらうことを考えなくてはならない)。しかし、一見「お得」に見えて、長い目で見れば「お得」でない場合もある。今回はそのことを少し考えたい。

¶ 天皇の「お得感」について「特例会見」から考える

 天皇の「お得感」は長い目で見た場合の「お得」がある一方、短期的に「お得」に感じられるのだが、長い目で見ると「お得」でない場合がある。この見極めが難しい。2009年に天皇と中国の習近平副主席(当時)とがルール違反で面会した「特例会見」を例にして考えてみたい。

§ 「特例会見」とは

 「特例会見」とは、鳩山由紀夫内閣が2009年12月15日に、慣例に反する形で実現させた明仁天皇(当時、現上皇)と中国の習近平国家副主席(当時、現主席)との会見のことである。
 宮内庁と外務省との間には、天皇と外国要人との会見は、天皇の負担軽減のため1カ月前までに正式申請するとのルールがある中で、中国側は2009年11月下旬、外務省を通じ会見を申請した。
 宮内庁はいったん断ったが、当時の鳩山首相ら官邸の強い意向で会見が行われた。背景には小沢一郎民主党幹事長の働き掛けがあったとされる。当時の羽毛田信吾宮内庁長官が記者会見で「天皇の政治利用」との懸念を表明したのに対し、小沢氏は事実上、羽毛田氏に辞任を求めた。
 関連サイト:「天皇特例会見」|Wikipedia

§ 考えるのはややこしいが

 これについて、翌2010年1月6日付の『朝日新聞』朝刊に掲載された「対談・『政治主導』と民主主義の行方」と題した記事を見てみたい。
 杉田敦・法政大教授(政治学)と長谷部恭男・東大教授(憲法学)の対談で、次のようなやりとりがある。

 杉田「宮内庁長官が独断で記者会見を開き政府を批判したのは、官僚機構の中の宮内庁としては出すぎではないでしょうか」
 長谷部「重要な国の要人だから会ってほしいというのは、天皇を単に利用価値のある手段としてしか見ておらず、結果的に天皇ないし皇室独自の価値や尊厳を掘り崩してしまう。そのことを首相や小沢氏はわかっていないのではないか―と天皇は言えない。異を唱えられるのは宮内庁長官しかいません」
 杉田「しかし、小沢氏らは、天皇が外交に寄与し、利用価値があることを示した方が、より長期的に国民の尊敬を得られると解釈している可能性もあります」
 長谷部「それは天皇を利用価値がある、値段がついたものとして見る議論です。役に立つか立たないかの問題として考えないから、天皇には尊厳が備わるのであり、尊厳があるから国の象徴たり得るのです」

 あらかじめ述べると、鳩山氏、小沢氏らが考えている天皇の「利用価値」に、私はまったく同意しないし、返って価値を阻害すると思っている。
 言葉が何を指し示しているか、きちんと確認していかないと誤解を生じるので、ちょっとややこしいのだが、一緒に考えていただきたい。

§ 長い目で見た「お得」を阻害する短期の「利用価値」

 長谷部氏は「重要な国の要人だから会ってほしいというのは、天皇を単に利用価値のある手段としてしか見ておらず、結果的に天皇ないし皇室独自の価値や尊厳を掘り崩してしまう」と明仁天皇が考えていると推測している。実際に明仁天皇はそう考えていると私は思う。
 この考え(明仁天皇の考え)に長谷部氏は同意しているのだろうし、私も同意する。
 「単に利用価値のある手段」という表現が出てくる。この「単に利用価値のある手段」とは、私の言う「天皇のお得感」とはまったく違う。「利用価値」と「お得」が同じような言葉なので紛らわしいが、正反対と言ってもいい。
 この文脈では、「単に利用価値のある手段」と「天皇ないし皇室独自の価値や尊厳」とが対比されている。私の言う「天皇のお得感」は「天皇ないし皇室独自の価値や尊厳」の方にある。
 「単に利用価値のある手段」は、短期間しか通用しない。習近平さんが来日する時、あるいは長くて民主党政権が存在する間だけだ。
 これに対し、「天皇ないし皇室独自の価値や尊厳」は、長い目で見て国民のための「お得」になっている。
 しかも、短期間の「単に利用価値のある手段」は、長い目の「天皇ないし皇室独自の価値や尊厳」を阻害してしまう、壊してしまうのだ。どちらが「お得」だろうか。
 そのことを「首相や小沢氏はわかっていない」と長谷部氏は思っているだろうし、明仁天皇は思っているだろうし、私もそう思う。

§ その時その時の政治から離れているから「お得」

 そもそも、天皇が時の政府に言いなりになって利用されたら、天皇と政府の違いがなくなってしまう。
 政権は交代するし、世界の情勢も日本の外交関係も変化する。そんな変化がある中で、「日本という国は、どんな時も、あらゆる国を同じように大切にしてお付き合いしますよ」という天皇が存在すれば、外国は、その時その時の関係を超越して、日本の国をとらえてくれるだろう。
 天皇と政府が一緒になって右往左往していたら、天皇の「お得感」はほとんどなくなってしまう。

§ 尊厳があるから「お得」

 長谷部氏の「役に立つか立たないかの問題として考えないから、天皇には尊厳が備わるのであり、尊厳があるから国の象徴たり得るのです」との発言についても考えてみたい。
 ここで言われている「役に立つか立たないかの問題」とは、先ほどの「短期的な利用価値」のことだ。短期的な利用価値を離れるから「尊厳」が生まれる。
 そして「尊厳があるから国の象徴たり得る」というとき、「象徴たり得る」ということが私の言う「お得」のことだ。
 そのような「象徴」が日本にいた方がよいのか、よくないのか、よいのなら「お得」だし、よくないのなら「迷惑」だ。
 「いた方がよい存在」が「現にいる」のであれば、それを「お得」ととらえようと私は考える。趣旨としては、長谷部氏とほぼ同じ考えだと思う。

§ 「お得」と「迷惑」の見極め

 ちょっと極端だが、短期と長期を考える分かりやすい例として、強盗犯のことを考えてみたい。
 ある人が、きょうの生活費に困った、どうしよう、と悩んだ挙句、強盗をして、なにがしかのお金を得たとする。
 その人は、そのなにがしかのお金できょうのご飯を食べられる。その点では強盗に短期的な「利用価値」が生じている。
 しかし長い目で見れば、いずれ警察に捕まって、刑務所に入れられて、物理的に身体を拘束され、社会的な身体にも傷がつく。
 これが果たして「お得」と言えるだろうか。
 この強盗犯の例はわかりやすい。けれども、天皇にどう振る舞ってもらえばよいのかは、「お得」なのかどうかが、すぐには分からない。
 すぐには分からない時に、知識・見識がある人が、「こちらがお得ですよ」と筋道を立てて話してくれればよく分かる、納得できることがある。
 天皇についても、その知識・見識を持つ人に、分かりやすく説明してもらいたい。そして私たちを納得させてもらいたい。それが「知識人」の役割だろう。そのような人にたくさん出てきてもらいたい。
 (2023.4.25 皇室王室勉強家 以出江 凡)

¶ 日誌

天皇 皇后 愛子内親王

▽4月17日(月曜)
【天皇】衆議院、参議院の役員らと面会(皇居・宮殿「春秋の間」)
▽4月19日(水曜)
【天皇】グアテマラとフィリピンの新任駐日大使の信任状捧呈式(皇居・宮殿)

秋篠宮家

▽4月14日(金曜)
【秋篠宮】花キューピットの愛称で知られる一般社団法人JFTDの創立70周年記念式典に出席(東京都内のホテル)
▽4月17日(月曜)
【秋篠宮・紀子妃】地球温暖化防止やSDGs達成に取り組み、成果を上げている企業・団体などを表彰する地球環境大賞のレセプションに出席(東京都港区の明治記念館)
▽4月20日(木曜)
【秋篠宮・紀子妃】チャールズ国王の戴冠式参列で5月に英国を公式訪問するのを前に、東京都八王子市にある昭和天皇の武蔵野陵と香淳皇后の武蔵野東陵を参拝
【佳子内親王】ハンガリー・日本友好議員連盟のホッパール会長らと面会。2019年に同国を公式訪問したことなどが話題に(東京・元赤坂の赤坂御用地にある宮邸)

¶ 関連サイト

宮内庁HP

【天皇皇后両陛下のご日程 令和5年(4月~)】
【秋篠宮家の御日程 令和5年(4月~)】

メディア

皇室ウイークリー 産経新聞
皇室7days 朝日新聞DIGITAL

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▽天皇の「お得感」の歴史的な変遷とは(2023年3月31日~4月6日)
▽天皇・皇室についてもやもやした時に考えてみること
▽愛子内親王の結婚報道で迷惑するのは誰か(2023年3月17日~23日)
▽天皇、皇族の行動を決めるのは前例と理念(2023年3月10日~17日)
▽天皇は男系男子でなければだめなのか(2023年3月3日~10日)
▽国際関係での皇室の「お得感」とは(2023年2月24日~3月2日)
▽皇室の存在の「お得感」とは何か(2023年2月17日~23日)
▽皇室の情報発信 何を伝えるのか(2023年2月10日~16日)
▽あるべき姿、役割をどうとらえるのか(2023年2月3日~9日)
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