【皇室の話題】昭和天皇はなぜ終戦を決意したのか(2023年8月11日~17日)

         


 
 ことしの終戦記念日も、天皇は皇后と共に全国戦没者追悼式に臨んだ。1945年のこの日、昭和天皇の「大東亞戰爭終結ノ詔書」がラジオで放送された。いわゆる玉音放送である。そこには、なぜ昭和天皇が終戦を決意したのかが述べられている。あらためて読むと、昭和天皇の考えへの評価が、今に至るまであいまいにされているような気がする。
 

¶詔書の論理は現代では納得しがたい

 1945年の8月15日に放送された昭和天皇の「大東亞戰爭終結ノ詔書」には、終戦を決断した背景、将来への決意が述べられている。それを読むと、昭和天皇の考えは当時としては当たり前だったし、当時の日本の人たちもそれに納得したことが想像できる。だが、その内容、論理は現代ではまったく納得できないものだと思う。
 

§ 繰り返し読む、書く

 作家の半藤一利さん(故人)は8月になると、目が覚めた時、寝床で「大東亞戰爭終結ノ詔書」の前半を読み上げた後、起床したという。
 米内光政海相は、この詔書を亡くなるまで浄書し続けたという。半藤さんの著書「日本のいちばん長い日」(決定版、文春文庫)に次の記述がある。
 

 <米内海相と詔書>
 偶然、詔書の文字は八月十五日にちなんだかのように八百十五字におさめられている。終戦後、米内元海相は毎日端座してこの八百十五字を浄書するを日課とした。彼はそれを死ぬまでつづけ、でき上ったものを部下や知人に贈った。それを家宝としている人も多いようである。(351ページ)

 
 半藤さんが読み返したのは、米内海相とは別の理由からだろう。米内海相が当事者だったということを抜きにしても、考え方には大きな違いがあっただろう。
 この詔書は繰り返して読むに値する。過去の日本を振り返り、現代と未来を考えるきっかけとなるからだ。
 

§ 神霊に顔向けできない

 「大東亞戰爭終結ノ詔書」はウィキソースにある。
 
 ■大東亞戰爭終結ノ詔書 – Wikisource
 
 前半部分(第一段落)を読むと、このまま戦争をすると、わが民族の滅亡を招来するだけでなく、人類の文明をも破却する、としたうえで、こう述べている。
 

斯ノ如クムハ朕何ヲ以テカ億兆ノ赤子ヲ保シ皇祖皇宗ノ神靈ニ謝セムヤ

 
 こんなことでは、国民を保持して、皇室の祖先や神霊に顔向けすることができようか、というのである。これがポツダム宣言を受諾した理由である。
 皇室の先祖を慮っての終戦の決断である。そういうことなのだろうか。昭和天皇の言いたいことが分かるような気がするが、この論理は、現代では理解できないと私は思う。今現在の視点で、この詔書の内容をきちんと評価し、大方の国民から支持されている言説を寡聞にして知らない。
 

§ 戦争をした理由

 戦争については前半部分で二つのことが述べられている。
 

曩(さき)ニ米英二國ニ宣戰セル所以モ亦實ニ帝國ノ自存ト東亞ノ安定トヲ庻幾スルニ出テ他國ノ主權ヲ排シ領土ヲ侵スカ如キハ固ヨリ朕カ志ニアラス

 
 ①戦争の理由は、日本の自存と、東亜の安定のため
 ②戦争は、他国の主権や領土を侵そうとしたのものではない
 では、日本の自存と東亜の安定は今後、図れるのだろうか。日本が占領地で行ったことは「主権を排する」行為ではなかったのだろうか。戦争を遂行した意義についてはさまざまな考えがあるだろう。その時、詔書に述べられている趣旨と、現実に何が起きたのかをきちんと整理したい。
 

§ 神州の不滅

 最後の段落では、神州の不滅を信じて総力を将来の建設に傾けることを期そう、臣民は天皇の考えを実現せよ、と呼びかけている。この呼びかけはその後、どのように解釈されたのだろう。否定されたのだろうか。そうではないのだろうか。「日本は神の国」と言った政治家が批判された。「神州の不滅」について述べた詔書を納得できるように評価し、大方の国民から支持されている言説を寡聞にして知らない。
 

§ かみしめて考えたい

 詔書は「堪ヘ難キヲ堪ヘ忍ヒ難キヲ忍ヒ」の文言がよく知られている。その気持ちはわからないではないが、全体をよくよく読んでみると、考えてみたい点が数々ある。私の理解が行き届かないこともあるだろう。この詔書の内容をよくかみしめてみたいと思う。
 (2023.8.20 皇室王室勉強家・以出江 凡)
 

¶ 日誌

天皇 皇后 愛子内親王

▽8月15日(火曜)
【天皇・皇后】全国戦没者追悼式に参列、天皇がお言葉(東京都千代田区の日本武道館)
【愛子内親王】終戦の日に当たり皇居・御所で黙とう
▽8月16日(水曜)
【天皇・皇后】第42回全国豊かな海づくり大会の式典出席のため、9月16日から1泊2日の日程で北海道を訪問すると宮内庁が発表。皇后の体調次第では天皇単独となる
 

秋篠宮家

▽8月17日(木曜)
【紀子妃】出産や育児で研究を中断したのち、日本学術振興会の支援で復帰した特別研究員の交会に出席(東京都港区の明治記念館)
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上皇 上皇后

▽8月15日(火曜)
【上皇・上皇后】終戦の日に当たり黙とうし、戦争犠牲者を悼んだ。全国戦没者追悼式のテレビ中継を見ながら、会場に合わせて黙とう(東京・元赤坂の赤坂御用地にある仙洞御所)
 

一般

▽8月12日(土曜)
【サウジアラビア王室】英紙フィナンシャル・タイムズ電子版は11日、日本、英国、イタリアの高官の話として、3カ国が共同で進める次期戦闘機開発計画にサウジアラビアが参加を希望していると報じた。英伊が前向きな一方、日本は反対。7月に岸田文雄首相がサウジを訪問してムハンマド皇太子と会談した際にサウジ側から直接要望が伝えられた▽8月15日(火曜)
【事件】反皇室のデモに参加した際、警備の機動隊員に暴行を加えたとして、警視庁は公務執行妨害の疑いで、自称無職の男性容疑者(70)を現行犯逮捕。デモは15日午後、全国戦没者追悼式が行われた東京都千代田区の日本武道館周辺で実施され、数十人が天皇制を批判、デモを批判するため右翼団体も集まり、警視庁が警備していた
▽8月17日(木曜)
【事件】皇室への献上名目で農家からモモをだまし取ったとして、福島県警は詐欺の疑いで、東京都練馬区の自称農業園芸コンサルタントの男性容疑者(75)を再逮捕。「モモは皇室に献上した」と供述し容疑を否認。モモの行方は不明
 

¶ 関連サイト

宮内庁HP

【天皇皇后両陛下のご日程 令和5年(7月~)】
【秋篠宮家の御日程 令和5年(7月~)】
 

メディア

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皇室7days 朝日新聞DIGITAL
 

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