【皇室の話題】2023ノーベル平和賞と日本の皇室制度に通底するものとは(2023年9月29日~10月5日)

         


 
 2023年のノーベル平和賞は、イランで女性の権利擁護を訴える人権活動家、ナルゲス・モハマディさんに授与されることが決まった。モハマディさんは「性別に基づいた抑圧を行う宗教的な政府とこれからも闘いを続ける」とコメントしたと伝えられる。今回のノーベル平和賞の話題と日本の皇位継承制度とに通底する問題はないだろうか。
 

¶ 皇位継承制度のあり方について、考えの筋道を見極めたい

 2023年のノーベル平和賞は「イランでの女性の抑圧との戦いと、すべての人の人権と自由を促進するための戦い」に贈られ、ノーベル委員会は「今年の平和賞はまた、前年にイランの神権政権の女性を対象とした差別と抑圧の政策に反対してデモを行った数十万人の人々を表彰するもの」としている。
 受賞者のモハマディさんは受賞決定後、「宗教的な政府とこれからも闘いを続ける」とコメントした。
 今回の平和賞授与は、日本の皇位継承制度とは縁もゆかりもなさそうな感じもするが、気になった。なので、調べて分かったこと、考えたことを記しておく。気になったのは「神権政治」「宗教的な政府」という言葉である。
 
 ■ノーベル平和賞 2023 – プレスリリース – NobelPrize.org
 ■ノーベル賞の公式ウェブサイト – NobelPrize.org
 

§ 人権を重んじて法律・政治を批判するのは内政干渉ではない

 ニュースを聞いてまず思ったのは、この平和賞授与が内政干渉に当たらないかということである。外国から自国の法律・政治を批判されたときに、「内政干渉だ」と反発する国はよくある。
 今回の授賞へのイランの反応に関し、NHKはニュースで、イラン情勢に詳しい慶應義塾大学の田中浩一郎教授という人のコメントを紹介している。「体制側は確実に反発を示すと思う。人権に関わる問題で柔和な対応を示すことはなく、むしろ強い内政干渉ととらえて、かえって強硬な姿勢をとるだろう」
 
 ■ノーベル平和賞 イランのモハンマディさん受賞 政権側は反発 | NHK | ノーベル賞2023
 
 この点、私は内政干渉ではないと考える。なぜなら問題は人権に関り、一国の法律・制度より重じてよい問題だと思うからだ。
 
 「うちの国の法律・政治では、政権にたてつく奴はひっ捕らえてきて死刑にするのOKですから」という国に、「はいそうですか、ご自由に」とは言わないだろう。
 

§ 「国柄や歴史・伝統」と「人権」との関係

 かつて、国連の女子差別撤廃委員会が、日本に関する最終見解案に、男系男子の皇族だけに皇位継承権があるのは女性への差別だとして、皇室典範の改正を求める勧告を盛り込んだことがあったという。2016年のことである、最終見解案の文言は、結果的には削除された。
 
 ■【国連女子差別撤廃委】男系継承を「女性差別」と批判し、最終見解案に皇室典範改正を勧告 日本の抗議で削除したが…(1/2ページ) – 産経ニュース
 
 現行の皇位継承制度がもし人権に関わるとなると、制度への勧告は「内政干渉」でないことになる。
 一部報道の論調は「同委がいかに対象国の国柄や歴史・伝統に無理解な存在であるかを改めて示したものだ」として、反論の出発点を「国柄や歴史・伝統」に設定している。
 
 ■【国連女子差別撤廃委】日本の国柄・伝統を無視し、「男系継承は女性差別」と勧告しようとした裏でやはりあの国が暗躍していた…(1/2ページ) – 産経ニュース
 
 2020年に女子差別撤廃委員会が皇室典範を問題にした時、日本政府は条約で皇室制度を取り上げるのが適当でない説明として「日本の皇室や諸外国の王室などの制度は、それぞれの国の歴史と伝統を背景に、国民の支持を得て今日まで存続してきている」と主張している。
 
 ■List of issues and questions prior to the submission of the ninth periodic report of Japan|Convention on the Elimination of All Forms of Discrimination against Women
 ■Ninth periodic report submitted by Japan under article 18 of the Convention, due in 2020|Convention on the Elimination of All Forms of Discrimination against Women
 
 リヒテンシュタインや英国は、王位継承制度などについては、女子差別撤廃条約に留保をつけているという。
 
 ■国連女性差別撤廃条約および選択議定書の留保に関する一考察 軽部恵子|桃山学院大学経済経営論集 42巻3号
 
 もちろん国民が支持する「国柄や歴史・伝統」は重要だ。だがそこだけを主張するのでは足りないと思う。「国柄や歴史・伝統」が、人権侵害に当たらないことを説明するのがよい。
 たとえばどこかの国が、古代の「毎年神殿に人の生贄をささげる」という伝統を保持していた時、私たちはどうするだろう。「そんな人権侵害はやめたほうがいい」と意見すると思う。しないだろうか。
 「そんなとんでもない伝統と皇室制度を一緒くたにするとはなんたることか!」との御批判を受けそうだが、そんなとんでもない伝統と皇室制度の違いを説明しないと、現に批判をしている人と議論をすることができないと思う。
 
 この点、1985年(昭和60年)5月29日の衆議院外務委員会で、当時の安倍晋太郎外相は女子差別撤廃条約の「差別」(1条)と皇位継承制度に関し、「皇位につく資格は基本的人権に含まれない」と答弁している。
 

「ここで言う人権及び基本的自由とは、いわゆる基本的人権を意味するわけでありますが、皇位につく資格は基本的人権に含まれているものではないので、皇位継承資格が男系男子の皇族に限定されておりましても、女子の基本的人権が侵害されることにはならない。したがって、本条約が撤廃の対象としている差別にも該当しない、こういうことでございます」

 ■第102回国会 衆議院 外務委員会 第16号 昭和60年5月29日 | テキスト表示 | 国会会議録検索システム
 
 これなら分かりやすい。政府の見解がそうだとすると、あらためて、現行の皇位継承制度が女性の基本的人権の侵害になるのかならないのか、と考えを進めることができる。
 

§ 法律と社会慣行の背景にある社会思想の変化が大切

 基本的人権は憲法、法律の話である。差別をなくすには法律が役に立つ。条約も法律のようなものだ。差別的な内容の法律をなくしたり、差別を規制・抑制する法律をあらたに作ったりすることは、差別をなくすために効果があるだろう。
 ところが、差別は法律の枠外で起きることがある。社会で「当たり前」とされること―慣行によるものだ。そっちの方が多いかもしれない。慣行には、伝統に基づいてに行われるものもある。
 そして、法律でも社会慣行でも、それを決める基になるのが、人々の考え・意識(社会思想・社会意識)だ。
 法律や社会慣行は国・地域によって違う。それは人々の考え・意識(社会思想・社会意識)が国・地域によって違うからだ。
 人々の考え・意識の変化に基づいて作られた法律が社会に浸透することで、人々の考え・意識の変化がより定着し、それによって社会の「当たり前」が変わる、ということはあり得る。法律と社会慣行は相互に影響する。
 法律、社会的慣行のいずれも、基にあるのは人々の考え・意識(社会思想・社会意識)なので、差別をなくすには、差別を生み出す人々の考え・意識(社会思想・社会意識)を変えていくことが大切になる。
 

§ 社会思想の基になる「理屈」と「信じていること」は時として対立する

 では、人々の考え・意識(社会思想・社会意識)は何によって決まるのだろうか。2つあると思う。ひとつは「理屈」、ひとつは「信じていること」だ。
 物事を考える時、「理屈」で考える道筋と「信じていること」で考える道筋がある。たとえば、人が存在するのは「タンパク質から進化した」と考える道筋と、「神さまがおつくりなった」と考える道筋がある。道筋に従って、物事のあり方、やり方についての考えが決まってくる。
 人々の考え・意識(社会思想・社会意識)の基になっている「理屈」と「信じていること」は、時として対立することがある。
 「信じていること」の大きな塊として宗教がある。今回のノーベル平和賞の授賞理由やコメントには「神権政治」「宗教的な政府」という言葉が出てくる。それらは否定的に使われている。
 神さまや宗教に良い悪いはない。あるのは「信じるか、信じないか」だけだ。だがその「信じていること」としての宗教が、「法律・布告」となり、それを「政治」や「政府」という権力が熾烈に運用することにより、「理屈」で許されない「人権侵害」を生じさせている、というところにノーベル平和賞は注目していると考えられる。
 

§ 「理屈」と「信じていること」の接点となる論理が欲しい

 女性差別との関連における皇位継承制度の先ほどの話は、「理屈」による主張をする人は、「国柄や歴史・伝統」は「信じていること」の範疇とみなすかもしれないので、「理屈」でも対応した方がよいということだった。
 現在、皇位継承制度により人権が侵害されていると主張する人はそう多くはないだろう。だが、その主張をする人に対して理屈抜きの「信じていること」で話しても折り合わない。それとは別の論理で話し合うことにより、みんなが納得する話し合いができると思われる。
 また、女系・女性天皇については認める意見と認めない意見がある。そうした時、双方が納得できる論理で話し合えることが望まれる。
 もとより「信じていること」に実体がないわけではない。「信じていること」の大きな塊である「宗教」は、歴史的に多くの人を救ってきただろう。
 「信じていること」の実体としてのエッセンスを見極めることで「理屈」との接合点を見出すこと。それが、みんなが納得できる話し合いの前提になるのだろう、とノーベル平和賞のニュースから考えたのだった。
 (2023.10.8 皇室王室勉強家・以出江 凡)
 

¶ 日誌

天皇 皇后 愛子内親王

▽9月29日(金曜)
【天皇・皇后】インドネシア公式訪問を終えた報告のため、昭和天皇の武蔵野陵と香淳皇后の武蔵野東陵を参拝(東京都八王子市)
▽10月3日(月曜)
【天皇・皇后・愛子内親王】関東大震災から100年に当たり、当時の赤十字の救護活動を伝える企画展「温故備震(おんこびしん)~故きを温ね明日に備える」を見学(東京都港区の日本赤十字社本社)
 

秋篠宮家

▽9月29日(金曜)
【秋篠宮・紀子妃】ベトナム公式訪問を終えた感想を、宮内庁を通じて文書で公表
【佳子内親王】11月1~10日の日程で、ペルーを公式訪問されることが閣議で了解された。今年は日本とペルーの外交関係樹立150周年で、友好親善を図る。佳子内親王の海外公式訪問は、2019年のオーストリアとハンガリーに続き2回目
【佳子内親王】新型コロナウイルス感染での療養を終え帰京
▽9月30日(土曜)
【佳子内親王】女子大生誕生110周年の記念式典に出席(仙台市、東北大の川内萩ホール)
▽10月2日(日曜)
【秋篠宮・紀子妃】第78回文化庁芸術祭オープニング公演のオペラを鑑賞。演目はイタリアの作曲家プッチーニの「修道女アンジェリカ」と、フランスの作曲家ラベルの「子どもと魔法」。文化庁芸術祭は1946年から毎年秋に開催。皇太子時代の天皇が出席し、代替わりに伴い秋篠宮夫妻が引き継いだ(東京都渋谷区の新国立劇場)
▽10月4日(水曜)
【秋篠宮・紀子妃】地球環境問題の解決に貢献した人に贈る第32回ブループラネット賞の表彰式に出席(東京・丸の内の東京会館)
 

宮家

▽9月29日(金曜)
【高円宮の久子妃】日本・エジプト協会(東京都港区)が解散したため、久子妃は名誉総裁を退任。9月30日付
 

宮内庁

▽9月29日(金曜)
【三の丸尚蔵館】国立文化財機構(東京)は皇室ゆかりの美術工芸品などを収蔵、展示する皇居・東御苑の「三の丸尚蔵館」の新館オープンに合わせ、記念展「皇室のみやび―受け継ぐ美―」を11月3日から2024年6月23日まで開催すると発表
▽10月4日(水曜)
【正倉院】宝庫の封を年に1度解く「開封の儀」
 

一般

【スペイン王室】7月の総選挙後から政治的混迷が続き、国王フェリペ6世は3日、サンチェス現首相に政権樹立を指示。先行きは不透明。11月27日までに政権を樹立できなければ来年1月中旬に再選挙
 

¶ 関連サイト

宮内庁HP

【天皇皇后両陛下のご日程 令和5年(7月~)】
【秋篠宮家の御日程 令和5年(7月~)】
 

メディア

皇室ウイークリー 産経新聞
皇室7days 朝日新聞DIGITAL
 

【皇室の話題】

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▽淡々とした事実を物語にしてしまう天皇(2023年6月30日~7月6日)
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