【 JAARAで散歩】潜在する記憶を音でたどる 麻布十番にパブリックアートを見に行く

         

 この休みはどこかへ散歩に行こうかな。そんなとき、街角の芸術作品=パブリックアート=を見に行くのはどうでしょうか。麻布十番商店街には、麻布地区の大使館の協力で、世界12カ国の作家のアート作品が設置されています。今回はその中から、記憶と音を連想させる作品2つを見に行きます。
 神宮前―青山―赤坂―六本木―麻布(JAARA)は歩くだけで楽しい街。目的があれば歩くのがいっそう楽しくなりますね。
※ JAARA(ジャーラ)は[神宮前―青山―赤坂―六本木―麻布]の街の連なりを指す造語です。

§ 内面の響きを聞く

 麻布十番商店街の中央からやや西より、魚可津さん近くの北側の歩道に、このモニュメントは立っています。
 

 
 フィンランドの彫刻家、マルクス・コッペル(MARKUS COPPER)さん(1968―2019)の「LUCK DONG(ラック・ドング)」という作品です。
 しずく(滴)の形をしています。これを見て思い出すのは「水は方円の器に従う」という言葉です。水は、正方形の枡に入れれば四角くなり、円形のボウルに入れれば丸くなります。
 けれども、器に従わない水の形があります。草の葉の上に載った「つゆ」(露)であり、したたり落ちる「しずく」(滴)です。
 人は生きていくとき、外からの制約に従って形を変えます。でも本来は、制約から自由な存在なのではないか。そうした記憶が呼び覚まされます。一方で、人間の内面にはさまざまな思いや考えや感覚があり、それにも従います。内面の奥底で何が響いているのか。この作品は問いかけているようです。作者の制作意図とは全くかけ離れているでしょう。けれど、そんなことを思います。
 

§ 時間の響きを聞く

 「方円の器に従」っていない水の形として、「波」もあります。波は、その場で水が上下しているだけなのですが、まるで一つの「波」という物体が進んだり、広がったり、動いているように見えます。海底の貝や浜辺の貝は、波の音を聞きながら、長い時間をかけて、殻の厚みを増してゆきます。
 パティオに近いところに、ドイツのウルリッヒ・エラ(ULRICH ELLER)さんの「内と外の響き(THE INNER AND THE OUTER SOUND)」という作品があります。
 

 
 遠くから見て、「壁に耳あり」かな、と思ったのですが、近づくと、耳ではなくて貝殻でした。エラさんは、音を使った芸術作品を制作しているようなので、偶然ですが、第一印象は大きく外れていませんでした。この貝殻を見て思い浮かべるのは、貝殻を耳に当てると波の音がする、という話です。
 あらゆる生命は海に源を発しているので、貝殻の奥から波の音を聞いたとすると、それは自分の外の音ではあるのですが、自分の生命に記憶として宿っている音でもあるのではないか、と思ったのでした。
 

§ 音の記憶を想起させる作品のまとめ

 フィンランドとドイツの作品を、自分の勝手な思いで眺めてきました。同じ作品を何度も見ると、あるいは、同じ作家の別の作品を見ると、違った思いや感覚が浮かぶかもしれません。なので、今のところ、自分勝手の宙ぶらりんにしておきましょう。きょうもいい一日になりそうです。
 
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