在日ウクライナ大使館は西麻布にあります。エントランスの周囲に、イラストが描かれたボードがたくさん張り出されています。通常の生活から戦場へ向かった人たちをフィーチャーする作品です。それを見ると、戦時下のウクライナの人々の思い、考えの方向性を、少しだけですが、感じ取ることができそうです。
神宮前―青山―赤坂―六本木―麻布(JAARA)は歩くだけで楽しい街。とはいえ、世界には悲しいことがあります。歩くうちに、その悲しみについて考えることができるかもしれません。
※ JAARA(ジャーラ)は[神宮前―青山―赤坂―六本木―麻布]の街の連なりを指す造語です。
§ ウクライナは勝つ
ウクライナ大使館は六本木と西麻布の中間の辺り、六本木通りの南側の坂の途中にあります。
小路を回り込んで上り坂に入り、大体の見当をつけると、警察官の方の姿が見えました。あそこでしょう。
到着すると、マンションのような建物でした。
敷地の囲いの左手に男の子の写真が掲げてあります。青と黄色の国旗に、なにか字が書いてあります。
キリル文字はわかりませんが、ウクライナ語で「украЇна переможе」と書いてあるようです。グーグル翻訳に入力すると英語は「Ukraine will win」、日本語は「ウクライナは勝つ」でした。発音は「ウクライーナ パレモージェ」と聞こえます。
この「украЇна лереможе」は楽曲の題名にもなっています。
キリル文字は分からないままに検索すると、有名なアーティストが参加しているようです。
歌詞付きの動画もありました。
キリル文字が分からないので読めません。それゆえ意味が分かりません。
おそらく「祖国のために戦おう」という趣旨のことが歌われているのでしょう。曲調はウクライナの民俗音楽の下地がありそうです。
もし、日本がこれと同じ状況になったらどんなことになるのだろうか、なかなか想像できません。
もちろん、この歌がウクライナの人々にどのように受け止められているのかも分かりません。最初の動画は9カ月で2700万回視聴されているので、それなりに人気があるのだと思われます。
§ 復員軍人とともに歩む
大使館のエントランスの両側には、目を惹きつけるカラフルなイラストレーションが描かれたボードがたくさん張り出されています。
入口の向かって右側にも。
左側にも。
さまざまな職業の人が描かれています。そして同じ英語の文言が添えられています。
「Never thought I’ll wear this uniform, but this is my land!」
(まさか軍服を着るとは思ってもみなかった。けれど、ここは私の土地だ!)
「Never thought I’ll wear this uniform, but this is my land!」という言葉は、普通のウクライナ人が国防で果たしている役割を強調する芸術プロジェクト「Call-sign Ukraine(コールサインウクライナ)」の標語(タグライン)です。
イラストレーションは、ウクライナのデジタルアーティスト、ニキータ・チトフ(Nikita Titov)さんが「ウクライナ退役軍人財団」と提携し、あらゆる分野から兵士となった人たちをフィーチャーしてデザインした18のポスターのコレクション。ロシアの侵略に対するウクライナ人の決意と犠牲への強力な賛辞となっています。キャンペーンに使われ、退役軍人を支援しています。
ポスターは「Atlantic Council」というサイトの「UkraineAlert」というブログシリーズにあるキャンペーンの紹介記事(←ここをタッチ)ですべて見られます。トップにあるイラストをタッチすると、ポスターがポップアップして出てでて、順番にめくれます。
ポスターに描かれているように、バスの運転手さんやコックさんが軍服を着て仕事をしているわけではないでしょう。
示されているのは、市井の人たちが国のために、ドライバーの制服や調理白衣から軍服に着替えて戦い、帰還した後もその経験と気概を持ちながら、市井でそれぞれの仕事をしているということだと思います。
ウクライナは、東部でロシアとの戦闘が2016年からあり、2022年初め時点での退役軍人の数は40万人。それがこれから、10万人単位で増えていく見通しのようです。
ゼレンスキー政権は、退役軍人の身体的、精神的なケアと財政的な支援、ハンディを負った人たちを受け入れる社会づくりを進めると同時に、戦後の国家復興の過程で、退役軍人に活躍してもらうことを期待しているようです。
軍服のダンサーがダンスを踊るイラストもありました。勝利を祝うダンスなのかもしれません。
§ ウクライナ大使館のとりあえずのまとめ
チトフさんのカラフルなポスターは、未来がよくなるとの人々の信仰を反映しているといいます。とはいえ、祖国を守ることと身体生命の危険を冒すこととは究極の葛藤があります。そのとき人は、理性にも、感情にも動かされることでしょう。その両方を、いつも鍛えておきたい。そう思った一日でした。
【 JAARAで散歩】これまでの「西麻布で散歩」
◇西麻布の味わい深い焼き肉屋さん『胡同』さんへ
◇おいしい上質の焼き鳥を食べに 西麻布の『一歩』さんへ