【 JAARAで散歩】競技場からお菓子屋さんまで 大物建築家・隈研吾さんの作品を見に青山へ

         


 
 隈研吾さんといえば新しい国立競技場を設計したことで有名な日本建築界の大物です。青山を歩くと、隈さんのいろいろな作品に出合います。作品は初期から変化を遂げた後、木材を使った「和」の感覚、自然を感じるたたずまいになっています。高層ビルもお菓子屋さんも、さまざまな形をつくっています。
 神宮前―青山―赤坂―六本木―麻布(JAARA)は歩くだけで楽しい街。目的があれば歩くのがいっそう楽しくなりますね。(2023.02.08)
※ JAARA(ジャーラ)は[神宮前―青山―赤坂―六本木―麻布]の街の連なりを指す造語です。

§ ポスト近代とポスト近代の後

 東京メトロ銀座線の外苑前駅の1b出口を上がると、梅窓院の参道入口です。
 

 
 このお寺の建物を隈さんが設計しています。本堂のようなところは縦のラインが強調された格子になっています。
 

 
 祖師堂は黒い壁が印象的です。これも縦のラインが強調されています。
 

 
 建物の前は通りに沿って竹が植栽され、古風な雰囲気を醸しています。
 

 
 隈さんの事務所は、参道の塀の向かいにありました。
 

 
 大物建築家なので、事務所はもっと仰々しいかと思っていたら、意外と普通でした。
 

 
 この梅窓院から眺めると、墓地の向こうに一風変わった立派なビルが見えます。
 

 
 なかなか堂々としたビルです。近寄ってみます。
 

 
 ドーリック南青山ビルです。1991年の竣工で、隈さんの初期の作品。ポストモダニズムの建築とされています。なんだかギリシャの神殿のようなテイストがあります。
 表へ回っても存在感があります。
 

 
 ポストモダニズムの建築とは何か調べると、次のようなことが分かりました。
 1960年代からのモダニズム(近代)の建築が、合理性、機能性を重視したため、都市や建築が味気なくなったとの批判が起きました。そこで、モダニズムから排除されていた装飾性、象徴性、歴史性、場所性、住民参加などを見直そうという動きになりました。この考えを取り入れた建築は1980年代に流行したそうです。
 モダニズムは合理性重視なので、鉄やガラス、コンクリートを使い、形としてはシンプルで直線が強調されました。
 これに対し、ポストモダニズムはデザインや装飾性を重視し、曲線を多用するなど個性的になっているのが特徴といいます。
 復古的なギリシャやローマなどの様式が取り入れられることもあるといい、隈さんのドーリックも、まさにそんな感じです。
 

§ 木材を使い、格子を組み

 ただ、隈さんはその後、変わっていきます。1990年代の半ばから、木材などの自然の素材を使い、格子を多用するデザインが特徴になっていきます。
 梅窓院は2003年の竣工ですから、その変化の後ということになります。
 
 南青山の3丁目へ足を伸ばすと、「サニーヒルズ南青山店」があります。台湾資本のケーキ屋さんです。(2013年竣工)
 

 
 非常にアトラクティブな外観です。一瞬びっくりします。建物の外側いっぱいに材木が組み合わされています。
 

 
 なんとなく亜熱帯を感じます。
 
 この材木の構成では「地獄組み」という伝統的な建築技法が使われています。
 建築グラビアというサイトの【建築探訪】地獄組み!木材に覆われたビル。サニーヒルズ南青山店という記事に「地獄組み」の動画がありました。
 

 
 複雑でよくわかりませんが、すごそうです。
 

 
 南青山6丁目まで行くと、根津美術館があります。
 

 
 周囲の植栽が日本の自然の雰囲気を醸しています。2009年竣工です。
 

 
 そして、2019年には国立競技場が竣工しました。
 

 
 全国各都道府県の木材が使われています。国立競技場の5階部分の周回通路は「空の杜」として開放されています。
 5階へ向かって階段を上っていくと、木材の連なりが圧巻です。
 

 
 5階からの見晴らしは全方位に素晴らしい。
 

 

 

 
 格子のデザインでは、JAARAではありませんが、下北沢に「やきとりてっちゃん」があります。
 

 
 これも隈研吾さんの作品です。HPにも紹介されています。
 下北沢 てっちゃん | 隈研吾建築都市設計事務所
 

 
 さまざまな建物を作っているのでした。このごろは、格子を見ると隈研吾さんを思い出すようになってしまいました。

§ 常識に縛られている限り、おもしろいことはできない

 隈さんは1954年生まれ。1990年、隈研吾建築都市設計事務所設立しました。
 2023年1月に日本経済新聞に掲載されたインタビューでは、大きな建築物だけでなく仏壇やスニーカーをデザインするなど多種多様なプロジェクトを手がけていることが紹介されています。
 香川県では1棟のサウナ小屋も手がけたとのこと。そこは薄いベニヤ板1500枚を積む複雑な構造になっているそうです。
 また事務所のスタッフや教え子が、建築の枠を超えて活躍していることについて、次のように話しています。
「文化的な公共建築を手がける建築家だけが偉くて、商業的なものは亜流。建築界にはそんなヒエラルキーがいまだにあります。『そういうのに縛られている限り、おもしろいことはできないよ』。口を酸っぱくして言い続けたのがよかったのかな」

§ 隈研吾さんの建築のまとめ

 隈さんは「流行に乗る」のではなく、「流行と違うモノを生み出す」人なのでしょう。そして、創作するときの念頭には、日本の自然と風土、生活があるのではないでしょうか。作品を見ているだけで楽しいですね。きょうもいい一日になりそうです。
 
【 JAARAで散歩】これまでの「建築を見る散歩」
 ▽現代日本の建築を見に青山通りを青山から赤坂へ
 ▽澄み切った空気を思い出す 大正・昭和の洋館を見に麻布へ
 ▽昭和初期の自由な空気を伝える現役の住宅 麻布台の『和朗フラット』へ
 ▽デザイナーズマンションの先駆けを見に 神宮前の「ビラ・ビアンカ」へ
 ▽建築界の巨匠、槙文彦さんの作品を見に 青山・麻布へ