お寺や神社、お屋敷の跡には大きな木があるものです。樹齢数百年を数える木は、その長い年月を通して周囲の土地や人々の移り変わりを眺めてきました。先の再選をはじめ数々の苦難を乗り越えてきました。多くの人に愛され、多くの人に希望を想起させたことでしょう。その幹や枝の姿に奥深い味わいを感じます。
神宮前―青山―赤坂―六本木―麻布(JAARA)は歩くだけで楽しい街。目的があれば歩くのがいっそう楽しくなりますね。
※ JAARA(ジャーラ)は[神宮前―青山―赤坂―六本木―麻布]の街の連なりを指す造語です。
§ 麻布山善福寺の逆さ銀杏
港区の古い大きな木といえば、麻布山善福寺の逆さイチョウでしょう。かつて、お寺を訪れた浄土真宗の開祖親鸞さんが地面に杖を差したところ、それに根が付き葉が茂ったといいます。樹齢750年。墓地の敷地内にあります。
傍らにある東京都の説明板には次のように書かれています。
善福寺は、昭和二〇年の東京大空襲によって本堂が全焼した際、このイチョウの木にもかなり被害があったが、いまなお往時の偉観をうかがうことができる。
根がせり上がって、枝先が下に伸びているところから『逆さイチョウ』ともいわれ、また、親鸞聖人が地に差した杖から成長したとの伝説から『杖イチョウ』の別名もある。
国の天然記念物に指定されています。
国指定文化財等データベース (善福寺のイチョウ)|文化庁
750年の間の麻布の土地の移り変わりを眺めてきた木です。
説明板にもあるように、昭和20年5月5日の空襲でお寺の本堂は全焼、イチョウも被害を受けましたが、生き延びました。二度の奇跡を体現した木といわれるゆえんです。
§ 赤坂氷川神社の大銀杏
大きくて古い木といえば、赤坂氷川神社の大銀杏もあります。推定樹齢は450年。
赤坂氷川神社は、HPによると、八代将軍徳川吉宗公が享保14年(1729年)、老中水野忠之を総責任者に命じて現在地に社殿を造営し、翌15年(1730年)4月に一ツ木村(現赤坂4丁目)にあった氷川明神を遷座しました。直後には吉宗公直々のご参拝もあったそうです。
大銀杏は神社が創建される以前からあったわけです。説明板には次のようにあります。
当社の大銀杏は推定樹齢四百五十年。御社殿が遷座する以前よりこの地に生育していたと考えられ、江戸時代の初期から歴史の変遷を見守ってきた当社のシンボルといえます。幹の周囲は約7・5mにもなり、一周していただくと、昭和二十年(一九四五年)の東京大空襲による焼損を目にすることができます。しかし、毎年十一月下旬に色鮮やかに黄葉し、生命力の強さと神秘さを感じさせます。
この木も東京大空襲の被害を受けているのでした。周囲の人の手当てで焼失をまぬかれたのでしょう。愛され敬われていることが分かります。
この木も人々を愛していることでしょう。
赤坂氷川神社は、一歩境内に入ると、木々が鬱蒼とし、空気がひんやりとし、神域に入ったような気持になる場所です。
赤坂氷川神社について | 赤坂氷川神社 (akasakahikawa.or.jp)
§ 乃木神社の楷の木
赤坂八丁目の乃木神社には楷(かい)の木があります。楷書の「楷」です。二の鳥居の近く、お守りなどの授与所の横にあります。
説明板には次のように書いてあります。
植樹 大正十五年五月六日
港区保護樹木指定 昭和四十九年九月
林学博士・中村弥六氏の奉納植樹と伝えられています 大正四年日本で最初に白沢保美博士が 中国山東省曲阜県の孔子廟の子貢より種子を持ち帰り 育成された由緒正しい楷で 神田湯島聖堂と岡山県閑谷学校の楷と同系統のものです 楷とは樹姿端正で一点一画が整っていることから書法の楷書の語源になっています
また境内には、昭和天皇御在位六十年の記念の楷樹もあります
白沢博士というのは農商務省林業試験場長をつとめた人物です。「孔子廟の子貢より種子を持ち帰り」というのがよく分かりませんが、次のようなことだと思います。
中国山東省曲阜(きょくふ)の孔子廟というのは、孔子が葬られている場所です。墓所にある「至聖林」と呼ばれる林は、面積2㎢もあり、弟子たちによりいろいろな木が植えられているそうです。この中に孔子の高弟、子貢が手植えした楷の木(の子孫)があるそうで、学問の木だというので、白沢博士がその種を持ってきたのでしょう。
植物学者の牧野富太郎博士は楷の木を「孔子木」と名付けたそうです。
明時代の中国の随筆「五雑爼」には、「昔は中国で進士になつたものはこの材で作る笏を授けられたものである。」という記述があるようで、学問の木の風格を感じます。
楷(かい)の木 |日医ニュース
楷(カイ)の木はなぜ「学問の木」か | レファレンス協同データベース (ndl.go.jp)
樹齢としては約百年です。けれども大正末から昭和、日本は戦争への道を歩みました。乃木大将を参拝しようと多くの指導者たちがこの神社を訪れたことでしょう。この木はその様子を、眺めてきたのだと思います。
§ 古くて大きい木のまとめ
港区内の古くて大きい木といえば、芝の増上寺のカヤ、高輪の旧細川邸のシイなどがあります。善福寺のイチョウ、氷川神社のイチョウ、いずれも、何も言わず、静かに立っています。話しかけたら、おもむろに、何かを答えてくれるかもしれません。きょうもいい一日になりそうです。
【 JAARAで散歩】赤坂で散歩
▽明治の軍人の気概に触れる 乃木坂の旧乃木邸へ
▽現代日本の建築を見に 青山通りを青山から赤坂へ
▽赤坂一ツ木通りの路傍の石柱は彫刻のパブリックアートだった
【 JAARAで食べ飲み】赤坂で食べ飲み
▽コスパ抜群の赤坂『赤札屋弁慶』さん 改装されてすっきりした雰囲気に
▽コスパ最強のサイゼリヤ 赤坂見附のお店は居心地がいい
▽銘醸の日本酒で〆は細うどん 赤坂の『香吾芽』さんへ 食べ飲み探訪
▽長崎・五島の料理とお酒 赤坂の『赤ちょうちん ぶらり』さんへ
▽陳年18年の紹興酒を飲みに 赤坂の『京華茶楼』さんへ
▽和食と日本酒がおいしい居酒屋さん 赤坂の『ごだいご』さんへ
▽知る人ぞ知る焼肉の名店 赤坂の『大関』へ
▽越後のおいしいへぎそばとは 赤坂の居酒屋『きなせや』さんへ