表参道を歩いていると、歩道の上の方に並木に沿ってずーっと並んでいる旗の広告が気になりました。「Dior Tears」という文字が読めます。Diorなのでしょう。はためく写真をみると「きれいな絵」ではありません。ロケーションも画像も、なんとなくひなびたような感じです。どんな狙いがあるのでしょう。(2023.7.19)
神宮前―青山―赤坂―六本木―麻布(JAARA)は歩くだけで楽しい街。目的があれば歩くのがいっそう楽しくなりますね。
※ JAARA(ジャーラ)は[神宮前―青山―赤坂―六本木―麻布]の街の連なりを指す造語です。
§ 「きれいな絵」ではない
最初に広告が目についたのは表参道の並木を歩いていた時です。でも気が付けば、駅の改札口を出ると、すぐに大きなポスターがありました。
ポスターが並んでいます。
地上へ出ると、表参道沿いにずっと旗が掲げられています。通りの南側。
北側にも。
写真の図柄を見てみると、いわゆる「きれいな絵」ではありません。
背景は砂漠のような、湖のような感じです。「Dior Tears」の文字を装飾する植物もなにか写真と似つかわしくない。
どうしてこのロケーションなのか、どうしてこのモデルなのか、狙いは何なのか。
§ 歴史を背景に
「Dior Tears」は、「デニム・ティアーズ(DENIM TEARS)」の創業者でデザイナー・クリエイターのトレマイン・エモリー(Tremaine Emory)さんをゲストに迎えたディオールとのコラボレーションだそうです。
■DIOR | Dior Tears – Défilés – メンズファッション
■DENIM TEARS
ウィキペディアによると、トレマイン・エモリーさんは米国ジョージア州アトランタ生まれ、ジャマイカやニューヨークで育ちました。
2010年に英国に移りファッションの仕事をし、2019年に衣料品ブランド「デニム・ティアーズ」を設立。 最初のコレクションは奴隷制度400周年(2019年)に発表され、米国のコットンと奴隷制度の歴史を探求(explore)しました。
広告にあった黄色い花は綿(コットン)の花で、「デニム・ティアーズ」を象徴する意匠なのでした。
■Tremaine Emory – Wikipedia
コレクションの背景には、アメリカ南部に生まれニューヨークで育ったアフリカン・アメリカンであるエモリーさんの個人の歴史、そしてエモリーさんにつながる黒人の歴史、アフリカ人が世界各地に奴隷として連れていかれた歴史があるでしょう。
エモリーさんは、アーティストのマイルス・デイビスさんや作家のジェイムズ・ボールドウィンさんたちが、パリに安息の地を見出した時のことを想起しています。
ヨーロッパの都市が、アメリカを逃れて渡ってきた黒人の作家やミュージシャン、アーティストを受け入れ、彼らの芸術性や存在自体をリスペクトした時代を。
ディオールによると「ディオール ティアーズ」は、「ニューヨークとパリの結びつきにニューオーリンズの要素を加えた、ジャズをめぐる旅のようなコレクション」なのだそうです。なんとなくそんな気もしてきます。
このコラボレーションはストリートウエアと高級(ラグジュアリー)ブランドとの融合ということでもあると思います。
デニム・ティアーズはコラボレーションが巧みなブランドだそうで、一方のディオールもいろんなコラボレーションをしています。コラボレーションで新たらしい価値を見出していくのでしょう。
§ ご縁がない世界
原宿駅の近くにポップアップストア(短期間設置される店舗)がありました。いろいろな有名人が訪れているようです。(ストアは7月30日まで)
■「ディオール」と「デニム ティアーズ」がコラボ 原宿にポップアップをオープン (fashionsnap.com)
ネットの記事を見ると「ポップアップでプレローンチするポロシャツ(26万円)やサドルバッグ(110万円)、ポップアップ限定モデルの「B33」スニーカー(16万5000円)3種なども発売」と書いてあります。
ポロシャツ26万円……。まあ、私とのご縁はない世界といえましょうかね。
表参道には旗以外にも広告がたくさんありました。
街角にも。
ラフォーレは広告塔になっています。
表参道はポップアップ参道なのでした。
ここでお買い物をする人は気にならないかもしれませんが、私なんぞは「広告にどれだけのお金を使っているのだろう。価格にどのくらいを占めているのだろう」などと、考えなくてもよいことを考えてしまいました。
§ ディオール・ティアーズのまとめ
ファッションはいろいろな価値を追求していて、その価値を認めてお金を払う人がいるのだなあ、と思いました。勉強になったので、きょうもいい一日になりそうです。
【 JAARAで散歩】これまでの「神宮前で散歩」
▽原宿・表参道の歴史と広がりをたずねて 神宮前交差点へ
▽気鋭の書と大家の絵に圧倒される パブリックアートを見に明治神宮前<原宿>駅へ
▽並木150本に90万の光 2022冬のイルミネーションを見に表参道へ
▽デザイナーズマンションの先駆けを見に 神宮前の「ビラ・ビアンカ」へ