【皇室の話題】天皇が担う新しい時代の国際親善とは(2023年6月9日~15日)

         


 
 徳仁天皇は即位後初の国際親善の旅としてインドネシアを訪問した。これに先立ち15日記者会見し、日本がかつてインドネシアを占領下においたことについて「過去の歴史に対する理解を深め、平和を愛する心を育んでいくことが大切ではないかと思う」と話した。天皇は皇后と一緒に17日に出発して現地入り。同国での言動が注目される。

¶ 天皇が担う新しい時代の国際親善とは

 徳仁天皇は17日からインドネシアを訪問した。天皇は外国を訪問したり国賓を歓迎したりして国際親善を担う。親善とはお互いを信頼し尊重する態度を持つことであろう。明仁上皇の国際親善は太平洋戦争を踏まえる必要があった。徳仁天皇がそれを踏まえる必要があるのはもちろんだが、明仁天皇に加えて何ができるのか。新しい時代の国際親善とは、日本が「平和国家」であることを含めて、現代に通用する魅力を有し、時代に合った価値観と行動力を持つ国であると示すことにあるだろう。

§ 平和国家であることが前提

 昭和天皇が戦後に訪れた外国は欧州と米国で、アジアへは行かなかった。制度の問題もあっただろうが、大戦の際に大元帥だった昭和天皇を受け入れることに抵抗があったことは容易に想像できる。
 明仁天皇は即位後最初の外国訪問として、1991年にタイ、マレーシア、インドネシアを訪問した。戦争の当事者ではなかったからこそできたのであり、それができるので、最初の訪問国をアジアにしたのであろう。
 その当時、またその後も、明仁天皇は各国で、「日本は戦後、平和国家に生まれ変わった」ということを強く主張した。
 日本が平和国家であることを強調したいのは徳仁天皇も同じであろう。アジアの国々との国際親善では、日本が平和国家であることを確認することが前提になるだろう。

§ 政治的、経済的な状況の変化

 明仁天皇が即位後初めてアジアを訪問した頃、日本は高度経済成長し、GNP 世界第 2 位の国だった。
 1968年からのGNP 世界第 2 位は2010年に終わった。日本の変化の一方で、アジアの国々も地力をつけ、経済的な関係は変化した。
 国際政治も流動している。日本に代わってGNP 世界第 2 位となったのは中国で、その中国は近年、欧米各国がいろいろな懸念を抱く国になっている。
 欧米各国というより、アジアの各国はより深刻な懸念を抱いているかもしれない。徳仁天皇のインドネシア訪問は、そのような国際情勢の中で、日本に対しどのようにふるまってもらうのか、その根拠を形成する機会としての訪問なのである。

§ 歴史的な経緯と現在の状況

 徳仁天皇はインドネシアへの出発に先立ち記者会見した。平和国家に関しては、「過去の歴史に対する理解を深め、平和を愛する心を育んでいくことが大切ではないかと思う」とした。これは国民に向けた呼びかけだろう。
 加えて、「私たち自身は戦後生まれで戦争を体験していないが、上皇ご夫妻から折に触れて戦時中のことを聞く機会がある。平和を大切に思う気持ちを受け継いでいきたい」と話した。自分自身の決意表明だろう。
 平和国家以外についてはどうか。「在留邦人や日本とゆかりのある方々などから両国の交流の歴史と現在の状況などについて話をうかがえればと思う」と話した。歴史的な経緯と現在の状況を知った上で、未来への展望をどう描くのだろうか。

§ 国民がいなければ成り立たない話

 天皇が国と国民と象徴であるということは、天皇が国民の映し鏡であるともいえる。国民が何も言わないのに天皇が「日本とは、日本国民とはこうですよ」と勝手に言うわけにいかない。
 日本を魅力的な国にするのは私たち国民だ。そうした国民がいなければ、天皇が日本の魅力を示すなどということは成り立たない話だ。
 天皇、皇后が示せる日本の魅力はこれまでに培われている。それを蓄えた上で、これからも増やして、大きくしていきたい。
(2023.6.18 皇室王室勉強家・以出江 凡)

¶ 日誌

天皇 皇后 愛子内親王

▽6月9日(金曜)
【天皇・皇后】結婚から30年。同日付で感想を公表。「2人で多くのことを経験し、互いに助け合いつつ、喜びを分かち合い、時には悲しみを共にし、これまでの歩みを進めてこられたことに深い感謝の念を覚えます」とした
【天皇・皇后】17~23日の6泊7日の日程で、国賓としてインドネシアを公式訪問することが閣議で決定。友好親善目的では即位後初の外国訪問。国事行為臨時代行を皇嗣の秋篠宮が務めることも決定
▽6月12日(月曜)
【天皇・皇后】日本学士院賞の第113回授賞式に出席(東京・上野の日本学士院会館)
▽6月14日(水曜)
【天皇・皇后】インドネシアを国賓として17日から公式訪問するのを前に上皇夫妻にあいさつ(東京・元赤坂の赤坂御用地にある仙洞御所)
▽6月15日(木曜)
【天皇】17日からのインドネシア公式訪問を前に、皇居・宮殿「石橋の間」で記者会見。太平洋戦争中に日本が同国を占領下に置いたことに触れ「亡くなられた方々を忘れず、過去の歴史に対する理解を深め、平和を愛する心を育んでいくことが大切だ」と述べた
 
 ■両陛下、インドネシアご訪問へ 天皇陛下が記者会見 (ntv.co.jp)

上皇 上皇后

▽6月14日(水曜)
【上皇・上皇后】インドネシアを国賓として17日から公式訪問する天皇、皇后があいさつ(東京・元赤坂の赤坂御用地にある仙洞御所)

秋篠宮家

▽6月13日(火曜)
【秋篠宮】水循環の健全化に貢献した個人や団体に贈られる第25回日本水大賞の表彰式に出席(東京都江東区の日本科学未来館)
▽6月15日(木曜)
【秋篠宮・紀子妃】古代メキシコ文明を紹介する特別展を鑑賞(東京・上野の東京国立博物館)

宮家

▽6月12日(月曜)
【常陸宮】総裁を務める発明協会の全国発明表彰式に出席(東京都港区のホテル)。尿路感染症の治療を終えて4月下旬に退院後、初の公務

一般

▽6月9日(金曜)
【首相動静】9時58分皇居。天皇皇后両陛下御結婚満30年祝賀の記帳
【政府】松野博一官房長官は9日の記者会見で「現行憲法下で天皇陛下の外国訪問の間に解散された例はないと承知している」「臨時に代行させる国事行為に制限はない」と述べた

¶ 関連サイト

宮内庁HP

【天皇皇后両陛下のご日程 令和5年(4月~)】
【秋篠宮家の御日程 令和5年(4月~)】

メディア

皇室ウイークリー 産経新聞
皇室7days 朝日新聞DIGITAL

これまでの【皇室の話題】

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▽皇室は伝統文化継承の担い手(2023年5月26日~6月1日)
▽天皇の存在を国民に印象付ける活動の場面とは何か(2023年5月19日~25日)
▽上皇、上皇后が皇室に存在する意味とは(2023年5月12日~18日)
▽英国と日本、神さまと王権との関係の違いは(2023年5月5日~11日)
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▽皇室の存在の「お得感」とは何か(2023年2月17日~23日)
▽皇室の情報発信 何を伝えるのか(2023年2月10日~16日)