【 JAARAで散歩】日本の位置を決める「日本経緯度原点」を見に麻布台へ行く

         


 
 麻布台に「日本経緯度原点」という石の標識があります。ある場所、たとえば今いるところが地球上のどこにあるかを示すのに、東経〇度〇分、北緯〇度〇分とか言いますよね。麻布台の「原点」は、日本各地の経度、緯度を決める基準となる地点です。ロシア大使館の裏という思いがけない場所にあります。散歩の途中、見に行ってみましょう。(2023.9.10)
 神宮前―青山―赤坂―六本木―麻布(JAARA)は歩くだけで楽しい街。目的があれば歩くのがいっそう楽しくなりますね。
※ JAARA(ジャーラ)は[神宮前―青山―赤坂―六本木―麻布]の街の連なりを指す造語です。
 

§ 地球上のどの地点かをミリ単位で示す

 日本経緯度原点の場所は「東京都港区麻布台二丁目十八番一」。神谷町と麻布十番の間にあります。
 

 
 六本木から来るなら、ロシア大使館の前を通り
 

 
 飯倉交差点に近い方の側、向かって左側の道を入っていきます。
 

 
 突き当りはアフガニスタン大使館。その手前の右側にあります
 

 
 小径を進んで行くと
 

 
 「原点」の標識があり、その手前に説明板、さらにその手前に「原点方位角」を示した標識があります。
 

 
 「原点」はこんなです。
 

 
 原点の経度緯度、原点方位角は
 ▽経度:東経 139°44′28.8869″
 ▽緯度:北緯  35°39′29.1572″
 ▽方位角:   32°20′46.209″
 となっています。
 
 経度の1秒(″)は赤道上で約30メートルですから、秒の小数点以下4桁、つまり1万分の1というと、3ミリ。地球上の位置をミリ単位の精度で示しています。
 
 なぜここに原点があるかというと、かつてここに東京天文台があったのだそうです。
 

 
 「原点方位角」というのは何かというと、「真北はどっちの方角か」の基準です。
 

 
 「日本経緯度原点」と、茨城県つくば市北郷1番にある「つくば超長基線電波干渉計観測点金属標」とを結んだ線が、真北とどのくらいの角度になっているかを示しています。
つくば市の地点は、かつて巨大なパラボラアンテナ「つくばVLBIアンテナ」があったところです。
 
 

引用:みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト – 内閣府


 
 このアンテナは、数十億光年離れた星から届く微弱な電波を、地球上の複数のパラボラアンテナで同時に受信することで、数千キロ離れたアンテナ間の距離を数ミリ誤差で測定する測量技術「VLBI(Very Long Baseline Interferometry、超長基線電波干渉法)」に使われたのでした。1998年に整備され、2016年に茨城県石岡市に観測局ができたため、同年度に運用を終了しています。
 
 ある地点がどこにあるかを示すには、「日本経緯度原点」からの距離と方角を特定すればよいというわけです。
 

 
<参考>
 ■日本経緯度原点 | 国土地理院
 ■日本の測地系 | 国土地理院
 ■日本経緯度原点 – Wikipedia
 ■国土地理院、「つくばVLBIアンテナ」の運用を年内で終了|関連ニュース|みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト – 内閣府
 

§ 経度緯度が替わってGPSに対応

 
 日本経緯度原点の経緯度は2回替わっています。
 1892年(明治25年)に天文測量により割り出したのは「,東経 139°44′40.5020″、北緯 35°39′17.5148″」でした。
 2001年(平成13年)の測量法改正で測量の基準が世界標準になったため「東経 139°44′28.8759″、北緯 35°39′29.1572″」に変更され、さらに2011年の東日本大震災で原点が東へ27センチ移動したため、東経が100分の11秒増え、現在の値に改正されました。
 
 
 
 2001年の測量法改正の前段には世界的な潮流がありました。人工衛星の観測により世界中の主な測地測量網を結合しようとする動きが1960年代に始まりました。
 ある場所についての緯度経度の値は、測量方法によって変わります。それぞれの系統を「測地系」と呼び、日本では、2001年の測量法改正により翌年4月、位置を表す基準が「日本測地系」から「世界測地系」へ移行しました。
 
 ■世界測地系 | 国土地理院
 
 日本の領域に厳密に適合するように考慮した測量システムから、世界のどの地点でも一定の正確性をもつシステムへ変更したわけです。
 その改正を後押ししたのが、GPSの登場でした。GPS(Global Positioning System・グローバル・ポジショニング・システムの略)は、予備5基を含む29基の人工衛星を利用して位置を測定する仕組みです。「全地球衛星測位システム」とも呼ばれます
 GPSを利用することで、カーナビ、携帯端末の位置情報、物の運送のトレーサビリティなど、生活がとても便利になりました。
 「世界測地系」を導入した大きな理由は、地図の基準をGPSが準拠する形に合わせることにあったともいいます。
 1960年代からの世界的な動きを背景に、1990年代からのGPS活用時代に対応し、日本経緯度原点の経度緯度も変化したわけです。
 

 
<参考>
 ■測地系とは|日本測地系・世界測地系 – 空間情報クラブ|インフォマティクス運営のWebメディア
 ■地理座標系 – IBM Documentation
 ■高精度測位時代の到来|衛星測位が地図にあたえるインパクト – 空間情報クラブ|インフォマティクス運営のWebメディア
 ■
 ■日本経緯度原点(にほんけいいどげんてん)とは? 意味や使い方 – コトバンク

 

§ 原点を基に補正

 GPSで精度の高い計測ができるのなら、「日本経緯度原点」なんて必要ないんじゃないの、と思えてきます。しかし、そうはいかないのです。
 地面は、地殻変動によって常に動いています。平常時でも年間最大10センチ移動するといいます。そうなると、GPSなど衛星で測った位置が地図と合わない、ということが起きてきます。
 地面が刻々動く中、日本では、様々な法令や地図での位置は、測量法で定めた基準による緯度、経度、標高などで表現します。この統一した基準を「国家座標」というそうです。
 GPSによる位置を、ある基準日時点の地図(国家座標)に合わせることにより、安定した位置情報サービスを提供できるようになります。
 その際に準拠する基準となるのが「日本経緯度原点」というわけです。全国に約11万点ある三角点は、日本経緯度原点と原点方位角を基準にして、順々に測量・計算して定められているのだそうです。
 
 ■国家座標とは? | 国土地理院
 
 GPSなど衛星測位の値を地図と合致するようにするためには、値を補正しなくてはなりません。そこで、国土地理院が補正情報を提供しています。
 
 ■地殻変動補正 | 国土地理院
 
 いくら測量の確度が精密になっても、地図や法令、契約書の位置情報を刻々と書き替えるわけにはいかないので、基準となる原点が不可欠なのでした。
 

 
<参考>
 ■日本経緯度原点を知っていますか
 

§ 日本経緯度原点のまとめ

日本の各地の位置を定める基準となるとなんだか壮大な感じがします。東にアフガニスタン大使館、北には東京アメリカンクラブと港区テイストが漂う場所にひっそりと存在しています。さあ、ロシア大使館の前を通って狸穴坂を東麻布、麻布十番へ降りるもよし、飯倉の交差点を抜けて芝公園も出るもよし、便利な場所でもありました。きょうもいい一日になりそうです。
 
【 JAARAで散歩】「麻布で散歩」
▽澄み切った空気を思い出す 大正・昭和の洋館を見に麻布へ
▽千年の伝説がある神社、お寺をめぐりに麻布へ