天皇が先日のインドネシア訪問で「スピーチ」をしなかったことは記憶に新しい。相手国との関係があったのだろうが、結果として平成の時代の外国訪問とは異なるスタイルになった。天皇の活動の具体的な在り方は天皇により異なり、体現する価値も変わってくる。その内実を決めているのは天皇とその周辺だ。
¶ 天皇が体現する価値を決めているのは天皇とその周辺という現実
天皇が社会の中で体現している価値は、天皇の存在そのものや国事行為というより、天皇の公的行為によって決まってくるといってよいだろう。公的行為についての法の定めはないので、その内容は天皇個人の別によって異なる、半面でいえばその異なりを生み出すのは天皇の個人の別だ。天皇が体現する価値について、国民はほとんど関与する道筋がない。
§ 公的行為が表す価値
日本国憲法は、天皇を国と国民統合の象徴としている。趣旨として、天皇が何らかの価値を体現するのに謙抑的であると思われる。
その中で、天皇が「日本は平和国家である」「ヒューマニズムは大切な考え方である」などの価値を体現しているとすると、その手段となっているのは、存在や国事行為ではなく、公的行為だといってよかろう。
慰霊の訪問をする、外国で過去の戦争の反省に触れる、お言葉で「歴史を継承するのが大切」と述べる、などはすべて公的行為である。
公的行為によって、体現する価値の大部分が表される。
§ 天皇によって異なる活動
天皇の公的活動については法の定めがないので、天皇によって活動の内実が変わってくる。戦後の昭和天皇であっても平成の天皇と比較すると大きく違っている。出向く行事も違っているし、その時のやり方も違っている。
平成の天皇と比べて、現在の天皇も変わってくるだろう。即位後朝見の儀のお言葉の内容も変わっている。外国訪問でのスピーチも異なってくることだろう。
§ 変化は天皇の意向を反映
そうした内容の変化は、その時々の天皇の意向が色濃く反映していると思われる。活動については宮内庁が天皇の意向を斟酌するだろうし、お言葉の草稿も平成の時代は天皇自身が書いていたとされる。
公的行為については内閣が責任を負うとされている。これは実際には、天皇の活動の概要や発言の草稿について、宮内庁長官が了承していることを指すと思われる。
ただ、具体的活動は生身の人間である天皇と宮内庁組織との合作であり、天皇の考え方が通らないことはないであろう。
§ 国民がこれを評価して直接是正させる方法はない
天皇の公的行為について、国民(国会議員など)が直接評価を下す場面は見当たらない。評価の目安となるのは、マスコミなどが報道する国民の声(評判)が大きいだろう。
国民の考え方を直接に天皇皇后が入手することもあるだろうが、国民の評判などを前提に、あるいは政治的な状況、国際関係を前提に、微妙な軌道修正をほどこしているというのが現実であろう。
§ 体現すべき価値の定義はない
社会の中で、天皇が公的活動を通じて体現するべき価値は、現に定義されていないし、国民が定義する機会もない。国民がほとんど関与する場面がない中で、天皇とその周辺の判断により、それが決まっていて、責任の所在も明確に意識される場面がほとんどないことに留意しておいてよいであろう。
§ フレキシブルの良い面も
国家として天皇の体現する価値を考慮して制御しているとは言いがたい。けれども、現状には現状の理由があるかもしれない。現状の方が皇室のフレキシビリティが担保されていて、皇室に事寄せた特定の考え方が暴走するのを抑制できる面があるかもしれない。
(2023.7.17 皇室王室勉強家・以出江 凡)
¶ 日誌
天皇 皇后 愛子内親王
▽7月9日(日曜)
【天皇・皇后】システム制御に関する研究者らが集う「第22回国際自動制御連盟世界大会」開会式に出席(横浜市のパシフィコ横浜)
▽7月11日(火曜)
【天皇】斎藤隆博次長検事と、高検検事長3人の認証官任命式(皇居・宮殿「松の間」)
▽7月12日(水曜)
【天皇】イランとエチオピアの新任駐日大使の信任状捧呈式(宮殿)
【天皇・皇后】「シニア海外協力隊」「日系社会シニア海外協力隊」の帰国隊員計3人と約1時間にわたり懇談。天皇、皇后とシニア隊員らとの懇談は初めて(皇居・御所)
■天皇皇后両陛下 途上国の発展に貢献したシニア海外協力隊らと懇談し労う | TBS NEWS DIG
▽7月13日(木曜)
【天皇・皇后】連日の大雨により、各地で土砂災害などが発生し、多くの人が被害を受けていることについて、天皇、皇后が心を痛めていると宮内庁が明らかにした
宮家
▽7月10日(月曜)
【高円宮の久子妃】70歳の誕生日
宮内庁
▽7月13日(木曜)
【宮内庁】西村泰彦長官は記者会見で、秋篠宮家の次女佳子さまが改修後の宮邸に移らず別の建物に1人で住んでいることを6月に公表した側近部局の対応について「問題になったときになるべく早く発表すればよかった」と述べた。秋篠宮一家が3月までに引っ越すとしていた当初の説明と異なる点は「結果的に違ったことについて、反省すべきだ」とした
▽7月14日(金曜)
【宮内庁】宮内庁職員などを名乗り、「皇室に献上するため」として文書で物品の提供を依頼する事案が報告されたと発表、注意を呼びかけ。「宮内庁または職員が皇室への物品の献上を一般の方に依頼することはない」
一般
▽7月8日(土曜)
【オランダ王室】ルッテ首相の連立政権は7日崩壊。ルッテ氏は8日、ウィレムアレクサンダー国王と会談し今後の対応を協議
▽7月15日(土曜)
【オランダ王室】政府は14日、ルッテ首相率いる連立政権が崩壊したことに伴う下院(定数150)選を11月22日に実施すると明らかにした。ルッテ政権は新内閣発足まで暫定政権を務める
¶ 関連サイト
宮内庁HP
【天皇皇后両陛下のご日程 令和5年(7月~)】
【秋篠宮家の御日程 令和5年(7月~)】
メディア
皇室ウイークリー 産経新聞
皇室7days 朝日新聞DIGITAL
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