南麻布のEU大使館は大きな建物です。窓がたくさんありますが、不揃いに並んでいます。そこがまたユニークでカッコよくもあります。でもなぜ、こんな不揃いな窓を配置するデザインにしたのでしょう。先に答えを明かしてしまうと「多様性」をあらわしているのだそうです。ちょっと散歩してみましょう。
神宮前―青山―赤坂―六本木―麻布(JAARA)は歩くだけで楽しい街。目的があれば歩くのがいっそう楽しくなりますね。
※ JAARA(ジャーラ)は[神宮前―青山―赤坂―六本木―麻布]の街の連なりを指す造語です。
§ 「多様性の中の統合」がモットー
EU大使館の周辺は大使館がいくつもあって、ちょっとした「大使館エリア」です。
フィンランド大使館とパキスタン大使館の間の道を南へ行って、右に曲がるとEU大使館が見えてきます。
窓の形が様々です。ユニークな外観です。
EUとは European Union、欧州連合。本部はベルギーの首都ブリュッセル。現在27カ国が加盟しています。
建物の名称は「ヨーロッパハウス」。日本での欧州連合(EU)の拠点です(駐日欧州連合代表部)。
地上4階、地下1階のオフィス棟と地上6階、地下1階の住居棟からなり、通りに面しているのは住居棟です。
不揃いな窓の形にはEUのシンボル的な意味合いがあります。
EUのHPによると、EUのシンボルには「旗」、「歌」、「記念日」、「標語(モットー)」の4つがあり、そのうちの「モットー」は「多様性の中の統合(United in diversity)」です。多くの国、言葉、文化を、それぞれ尊重しながら統合を進めようという理念を示しています。2000年に青少年を対象にしたコンテストで選ばれたということです。
多様な窓が統合したデザインで、EUのモットーを象徴的に表しているのでした。
ちなみに、旗は皆さんのご存知の欧州旗。
歌はベートーベンの第九の第4楽章の「歓喜の歌」です。日本で年末によく演奏される曲ですね。ドイツの詩人シラーの「人類愛と平和を理想とする心」にベートーベンが共感して作曲したとされ、EUの理想と共通しているとして選ばれました。
ただし、歌詞はなく、旋律だけです。言葉はそれぞれ違いますが、音楽は各国共通ですからね。
「ヨーロッパ・デー」は、5月9日。
窓が「多様性」なのですが、ちなみに、この住居棟の部屋はぜんぶ間取りが異なるそうです。多様性が徹底されているのでした。
▽EUとは(EEAS Website )
▽EUのシンボル(EU MAG )
▽EU(欧州連合)~多様性における統合(外務省: わかる!国際情勢)
▽EUが麻布にやってきた(ザ・AZABU)
§ 多様性の拡大
ヨーロッパハウスの完成は2011年の8月です。
駐日欧州委員会代表部(EU代表部の前身)が千代田区三番町に事務所を開設したのが1974年11月。賃貸料が高いことなど不便なため、2003年に施設の完全所有を目指してプロジェクトを開始。
2006年に国有地3,338㎡(旧自治大学校、2003年に立川市に移転)を購入し、2009年6月から建設が始まりました。
この時期の欧州連合の動きを見ると、2004年に中東欧諸国やバルト三国が加盟して範囲が拡大。欧州連合の憲法を目指した欧州憲法条約が2004年に調印されました。批准しない国があってとん挫しましたが、その後を受けて加盟国が増える中での機構改革などを定めたリスボン条約が2007年に調印されて2009年に発効しました。
一方、共通通貨ユーロを使う「ユーロ圏」は、2011年には17カ国に拡大しました(現在は20カ国)。
ヨーロッパハウスの建設計画が進められた時代は、EUが「多様性の中の統合」が深まっていった時期と重なるといえるでしょう。
玄関にはウクライナの旗がありました(欧州旗は建物前のポールに掲げられています)。ウクライナとの連携を示しているのでしょう。
開戦直後の2022年3月、駐日欧州連合特命全権大使は「ロシアのウクライナ侵攻には強固な国際連携で対抗」とのメッセージを発出しています。
§ EU大使館の窓のまとめ
個性的な窓の話でしたが、考えてみれば人も動物も植物も、それぞれ、みな個性があります。
自然の産物、たとえば野菜を見てみると、同じキュウリならキュウリでも、ひとつひとつ形が違います。それを、何かの型にはめて考えると、「規格外」ということにもなります。
けれど、みんな違ってみんないい。不揃いなほうが親しみやすい、それぞれに味がある、ともいえるでしょう。
そんなことを、EU大使館の窓は思い出せてくれているようです。きょうもいい一日になりそうです。
【 JAARAで散歩】大使館を見る散歩
◇ウクライナの現状を伝える写真を見に 西麻布のウクライナ大使館へ
◇港区にはなぜ大使館が多いのか 歴史を思い浮かべながら西麻布へ
◇まだ見ぬ国の人々を思い浮かべて 大使館を見に元麻布へ
◇バルト海の未知の国の歴史を思う リトアニア大使館を見に元麻布へ
◇ソフトパワーをアピールするパネルを見に 元麻布の中国大使館へ
◇戦時下のウクライナの人々の思いを感じに 西麻布のウクライナ大使館へ