2月23日の天皇誕生日に際した記者会見で徳仁天皇は、昨今話題になっている皇室の情報発信について「国民との交流を重ね、国民と皇室の信頼関係を築く上では、皇室に関する情報を、適切なタイミングで国民の皆さんに分かりやすくお知らせしていくことも大事なことであると考えます」と述べた。だが、関連質問への回答は素っ気なかった。
発信の具体的イメージを尋ねられ、「今現在、宮内庁でもいろいろと検討が進められていると思います。ですから、これは宮内庁の今後の対応に任せたいというように思っております」。
何をどのように発信するのか、具体的なイメージはないのだろうか。あっても言えないということなのだろうか。そもそも発信の必要性を感じているのだろうか。
インターネットが盛んになった今日、皇室に関する情報は多種多様、いわば雑多になっている。これまでの常識のようなやりとりが通じない恐れもある。そこへ踏み出すのであれば、慎重の上にも慎重にならなくてはならないと考えていることだろう。
§ 皇室の「お得感」について考える
皇室・宮内庁が国民向けの情報発信をしていく時、皇室の「徳」より「得」の発信、皇室の「お得感」の発信に意義があるのではないだろうか(と以前の記事で書きました)。「天皇陛下は雅子さま思いの素晴らしい方」という情報もいいのだが、「皇室は国民のためになっている」という情報の発信を皇室・宮内庁は考えていてよいだろう。
「お得感」を直接発信するのは難しいとはいえ、その前提として、どのように「お得」なのかを考えておいてよいだろう。皇室の「お得」な面として差し当たり思い浮かぶ「統合されてお得」「励まされてお得」「気付かされてお得」について、少し考えてみたい。
統合されてお得
天皇には国民の統合機能があるとされる。「私は別に天皇に統合されてないよ」と思う人が大半だろう。だが、天皇の存在は日本国民がバラバラにならない基盤になっていると考える社会学者はいる。
アメリカはトランプ政権以後、トランプ支持と反トランプに国民が分断された様相を呈している。バイデン政権はその統合にやっきになっている。
アメリカ国民はこれまで「建国の精神(民主主義の精神)」で統合されていたのだと思う。「自分が支持しなかった大統領であっても、選挙という民主主義の手続きを経て選ばれた人物なのだから、新しい大統領に敬意を払おう」という合意があった。それがトランプ政権後にほころんできた。
日本でも、岸田さんを総理とすることに賛成の人と反対の人がいて、国会の投票でも賛否が分かれる。そうであっても日本には天皇がいて、国民統合の象徴の天皇が、国民全体に代わって岸田さんを総理として親任する(任命する)という手続きがある。
「そんなもの、あってもなくてもおんなじじゃん」とも思える。とはいえ、むき出しの政治の対立を、妥協して統合した現実に接続する過程のクッションとして、政治と離れた権威が用意されているのが日本の仕組みだ。
天皇は総理の任命のほか、法律の発布とか外国の大使・公使の接受とかをやっている。国民の間で対立や異なった考えがある中で、決まった事柄を確定させる役割を、国民全体の象徴として形式的に担っている。これが国民の「統合されてる感」の(無意識のうちの)醸成に役立っていて「お得」だ、と考えることもできる。
励まされてお得
天皇は被災地を訪問する。天皇が来て「ありがたく思った」「元気になった」という人は実際にいる。「励まされてお得」な存在だ。
天皇が来てありがたいのは、「天皇が偉い人」だからだが、それだけではない。「天皇は偉い上に、世俗(政治)とは関係ない人」だからだ。
被災地の人が「総理が来るのと天皇陛下が来るのとでは全く違う」と言うのを聞いたことがある。どこが違うのか。その違いは、動機が「純粋」なのか「不純」なのかの違いである。
総理が来ると、「人気取りでしょ」「票が欲しいんでしょ」「ええかっこしいでしょ」と勘繰る。なんとなく不純なものが混じっているのを感じる。
一方、天皇の場合は差し当たり、「自分への支持の取り付け」と「お見舞い」とに直接的な関係がない。天皇は利害で動いているのではなく、「お見舞いしたい気持ち」があるからお見舞いしに来たと受け止めることができる。
「お見舞いしたい」という純粋な気持ちで来てくれる人がいればありがたい。それが「偉い人」なら、なおさらありがたい。ましてや天皇は国民統合の象徴である。国民全体が応援してくれていると実感することができる。
もちろん天皇のお見舞いについて「来てほしくない」「迷惑だ」と考える人がいるだろうから、その人にとってはデメリットだ。
そこで、天皇の被災地お見舞いにより生じるメリットとデメリットを比較考量すると、総体としてはメリットの方がデメリットを上回りそうだ。そうなると、天皇がいることは「お得」だ。天皇は「励まされてお得」な存在だ。
但し、ここで生じるメリットは、「天皇は偉い人」という、民主主義とはまったく無縁の価値観が前提となっていることに留意しておいてよいだろう。
気付かされてお得
これに関連して「気付かされてお得」というのもある。天皇は災害の発生直後だけでなく、何年かすると「復興状況ご視察」ということで被災地を訪れる。
被災直後はみんなが被災地を応援するが、そのうちに忘れる。被害が風化する。その時に天皇が行くと、天皇の行動は少なからず報道されるから、「ああ、あの時に大きな災害があったな。まだ復興は道半ばなんだな」と気付く。
ある社会学者は「ジャーナリズムがやることを天皇がやっている」と評したことがあった。天皇のパワーが人々に気付きをもたらしている。
被災地の復興が道半ばであることに気付くことは、被災地の人だけでなく、国民全体の「幸せ感」「よかった感」の向上につながっていくだろう。そうとすると、天皇は「お得」な存在だ。
「気付かされてお得」には別の側面もある。天皇は、人知れず苦しんでいる人、人知れず困難に立ち向かっている人を訪ねて励ますことがある。
天皇の行動は少なからず報道されるから、「こんなに苦しんでいる人がいるんだ」「こんな困難に立ち向かっている人がいるんだ」という気付きを促す。そうなると、「なぜこの人たちは苦しまなければならないのだろう。もしかすると政治が悪いのだろうか」と考えることになる。
民主主義の政治により国民の意思を決定するやり方として「多数決」があるが、多数決に頼りすぎると「数の横暴」や「大声民主主義」に陥らないとも限らない。
民主主義の利点は、その時その時の民意によって多数が入れ替わる「流動性」があることだ。だから、意思決定にかかわる人たちは、少数意見の存在、多数派の決定により不利益を被っている人の存在を意識していないと、多数の入れ替わる「流動性」がそこなわれ、民主主義の利点が発揮されない。
天皇の行動が人々に、少数意見の存在や、多数派の決定により不利益を被っている人の存在を気付かせることがあるとすると、民主主義とはまったく無縁な天皇が、民主主義を下支えしていることになる。
「人々は法の下に平等である(日本国憲法14条)」というのが民主主義の建前とすると、「皇位は世襲で継承する(同2条)」というのは、建前に抵触する。それで天皇の存在への批判も出てくる。
「だったら、民主主義の建前に抵触する存在が、民主主義を実質的に下支えしようじゃないか」と明仁天皇(上皇)は考えたのではないか、とも思えてくる。
「お得」以外はこちらで考えないと
今回は天皇の「お得感」を考えてみた。一方で、天皇には「やっかい感」もある。天皇は「お得」な存在なのか、「やっかい」な存在なのか。「お得感」と「やっかい感」とを比較考量することになる。皇室・宮内庁の側は「お得感」を押し出すだろうから、「やっかい感」については、こちら側が注意して考えていくしかない。
§ 雑誌の主な見出し
『女性自身』 2023年3月7日号:2月21日発売
■眞子さん[31][変身!!!]「学芸員放棄でセレブ妊活」
■雅子さま[59]涙「トルコ被災遺児の母に!」
■佳子さま[28]「皇室の男女格差」と闘う!学費〝自腹〟、結婚まで同居…
■天皇陛下[62]ユーモア伝説
『週刊女性』 2023年3月7日号:2月21日発売
■愛子さま[21](独走スクープ!)旧宮家御子息と御所で逢瀬
『週刊新潮』 2023年3月2日号:2月22日発売
■軋む皇室「天皇誕生日」に水を差す「佳子さま」秋篠宮家からの〝独立〟劇
■軋む皇室「三笠宮信子さま」お住まい5500万円改修の裏に「母娘の断絶」
§ 日誌
天皇 皇后 愛子内親王
▽2月18日(土曜)
【天皇】第9回洪水管理国際会議の開催を記念した水と災害に関するシンポジウムの基調講演を聴講(東京都港区の政策研究大学院大)
▽2月23日(木曜)
【天皇】63歳の誕生日、祝賀行事、一般参賀(皇居)
【天皇・皇后】上皇夫妻にあいさつ(東京都港区、赤坂御用地の仙洞御所)
上皇 上皇后
▽2月23日(木曜)
【上皇 上皇后】天皇63歳の誕生日に際し、天皇・皇后があいさつ(東京都港区、赤坂御用地の仙洞御所)
一般
▽2月17日(金曜)
【英王室】ダイアナ元皇太子妃がチャールズ皇太子(現国王)との離婚を巡る苦悩をつづった直筆の手紙32通が16日競売にかけられ、14万5550ポンド(約2300万円)で落札された。
宮内庁HP【天皇皇后両陛下のご日程 令和5年(1月~)】
宮内庁HP【秋篠宮家の御日程 令和5年(1月~)】
皇室ウイークリー 産経新聞
皇室7days 朝日新聞DIGITAL
これまでの【皇室の話題】
▽皇室の生きづらさとは(2023年4月7日~13日)
▽天皇の「お得感」の歴史的な変遷とは(2023年3月31日~4月6日)
▽天皇・皇室についてもやもやした時に考えてみること
▽愛子内親王の結婚報道で迷惑するのは誰か(2023年3月17日~23日)
▽天皇、皇族の行動を決めるのは前例と理念(2023年3月10日~17日)
▽天皇は男系男子でなければだめなのか(2023年3月3日~10日)
▽国際関係での皇室の「お得感」とは(2023年2月24日~3月2日)
▽皇室の情報発信 何を伝えるのか(2023年2月10日~16日)
▽あるべき姿、役割をどうとらえるのか(2023年2月3日~9日)
▽佳子内親王が願う「幅広い選択肢を持てる社会」(2023年1月27日~2月2日)
▽愛子内親王の和歌に注目集まる(2023年1月20日~26日)