【皇室の話題】英国と日本、神さまと王権との関係の違いは(2023年5月5日~11日)

         


 
 英国王チャールズ3世の戴冠式は以前と違う工夫があった。合唱隊は若い世代へのアピールだし、登場人物もジェンダーや人種への配慮が見られた。初めてキリスト教以外の宗教の代表を招待したのは、現代英国の多様性を反映したのだという。日本の即位儀式との違いを考えると、王さまと神さまとの関係にあると思う。今回はそこを考えてみたい。

¶ 「あいまいさ」が際立つ天皇の宗教性

 英国王チャールズ3世の戴冠式を見て、英国王と日本の天皇、双方の拠って立つところ(特に神さまとの関係)の違いを痛感した。双方の儀式を比べてみると、日本の天皇の存在基盤の一つである宗教的権威性について、その「あいまいさ」が際立つように思われた。

§ 神さまと王さまと国民と

 英国王の戴冠式は宗教儀式である。英国では、英国国教会(アングリカンチャーチ)が「国教」であり、戴冠式など重要な行事は国教会の儀式として行われることが法律で定められているという。
 国王はこの中で宣誓をする(The oath)。
 

 ”I Charles do solemnly and sincerely in the presence of God profess, testify, and declare that I am a faithful Protestant, and that I will, according to the true intent of the enactments which secure the Protestant succession to the Throne, uphold and maintain the said enactments to the best of my powers according to law.”
 
(大意)
 「私チャールズは、神の御前で厳粛かつ誠実に、次のことを明言し、証言し、宣言します。
私が忠実なプロテスタントであることを、そして、プロテスタントの王位継承を確保する制定法の真の意図に従って、法に従った私の力の限りにおいて、この制定法を支持し、維持することを」

 英国王は神の御心に添った存在である。国王の後ろには神さまがいる。エリザベス2世女王の葬儀でも、彼女が神の御心に沿って女王としての務めを果たし、神の御許に旅立ったことを、聖職者が祝福していたと記憶する。
 日本の天皇は神の御心に添った存在なのだろうか。それを確認する儀式がない。大嘗祭がそれを示唆しているのかもしれないが、大嘗祭には、英国の戴冠式のような神と会衆(国民)を前にした「宣誓」のような手続きがない。
 大嘗祭に登場する神さまはアマテラス(天照大御神/天照大神)だ。天皇とアマテラスとの関係を、英国王とプロテスタントの神との関係と比べると、位相が違う。日本国民とアマテラスとの関係も、英国民と神との関係と位相が違う。
 国王と神、天皇と神との関係の位相には、だいぶんの違いがある。

§ 神さまの価値観を共有できるか

 英国王の在り方は、英国民の多くがプロテスタントの神を信仰しているということが前提になっている。戴冠式では、国王が法と国教会を支持することを宣言すると、会衆が「神よ、チャールズ王を救い給え」と答える。
 日本の国民はアマテラスに「天皇を救いたまえ」とは祈らない。日本国民とアマテラスとの関係は、英国民と神との関係と違う。
 英国民にとって神さまは、国王を支持する契機になる。日本国民にとってアマテラスは、天皇を支持する契機になるだろうか。無理だろう。だって、「天皇と同じようにアマテラスさんの御心に添って生活していこう」なんていう日本国民はほとんどいない。
 「アマテラスさんはなんとなく偉そうだから、天皇さんも偉いんだろう」という感覚は呼び起こしているだろうけれど。
 国王と神さま、天皇と神さまとの関係に違いがあるので、国王と国民、天皇と国民との関係もだいぶんに違ってくる。

§ 「確か」で「ぼんやり」した宗教的権威

 日本の天皇が宗教と関係ないかといえばそうではなくて、天皇は日本の宗教的権威とされている。
 宮中祭祀は現在も日々行われ、天皇が日本国と日本国民の安寧と繫栄とを祈っていることに、天皇の存在意義を見出す人もいる。
 ただ、英国と違う面があり、やっかいな面もある。
 キリスト教は広く英国民に信仰され、生活を規律する価値観にもなっているが、日本の「皇室神道」はそうでない。神社の神道も、おおかたの国民にとっては「習俗」に近い面があるだろう。神道を通じて広く国民と皇室とが価値観を共有することはない。
 また、日本には「神国」として太平洋戦争を戦ってきた歴史がある。神道と天皇との関係はそれを想起させ、神道を強く意識することには忌避感がある。政教分離の厳格さを求める背景にもなっている。
 このような事情から、社会意識の深層では「天皇は宗教的権威である」と意識されているのは確かであるのだが、それを表立って確認する機会がない。もちろん明確な制度もない。
 天皇の即位儀礼における「神器」や「高御座」の宗教性については、あいまいな説明ですまされている。
 天皇の権威は何に拠って立っているのか。日本国憲法の定めだけではなく、社会意識の中にその拠り所が脈々とある。その説明があいまいなので、認識もあやふやにならざるを得ないのだ。

§ 王政を変えるとどうなるのか

 英国では、王制を支持しない人が増えているという。王制を変える時、英国民は「王さまと神さまとの関係」をどのようにとらえ直すのだろうか。近年の議論を調べてみたい。
(2023.5.16 皇室王室勉強家・以出江 凡)

¶ 日誌

天皇 皇后 愛子内親王

▽5月8日(月曜)
【皇后】「御養蚕始の儀」(皇居・紅葉山御養蚕所)
▽5月9日(火曜)
【天皇】春の叙勲のうち、大綬章の親授式が皇居・宮殿「松の間」で開かれ、天皇が勲章を手渡した
▽5月11日(木曜)
【天皇・皇后】天皇、皇后主催の春の園遊会が東京・元赤坂の赤坂御苑で開かれ、東京五輪の金メダリストや各界の功労者ら約千人が出席。2018年11月以来4年半ぶりで令和初

秋篠宮家

▽5月5日(金曜)
【秋篠宮・紀子妃】4日夕(日本時間5日未明)英国・ロンドン郊外のスタンステッド空港に到着。5日は午前に在留邦人と面会、午後はバッキンガム宮殿で国王主催のレセプション
▽5月6日(金曜日)
【秋篠宮・紀子妃】チャールズ英国王の戴冠式に参列。5日午後(日本時間6日未明)にはバッキンガム宮殿で国王主催のレセプションに出席。お祝いの気持ちを伝え、天皇、皇后からの祝意も伝えた
▽5月7日(土曜日)
【秋篠宮・紀子妃】英国訪問から帰国
▽5月9日(火曜)
【秋篠宮・紀子妃】チャールズ国王の戴冠式参列した感想を宮内庁を通じて公表。70年にわたる英王室との交流に触れ「出席に感慨を深くした」とした

宮家

▽5月9日(火曜)
【高円宮の久子妃・承子女王】高円宮の久子妃と長女の承子女王が6月1日に催されるヨルダンのフセイン皇太子の結婚式に参列の同国を公式訪問することが閣議了解された

一般

▽5月5日(金曜)
【英王室】ウィリアム皇太子夫妻が4日、地下鉄を利用してロンドン中心部の繁華街ソーホー地区を突然訪問。パブに立ち寄り、集まった市民らと談笑し交流を深めた
▽5月6日(金曜日)
【英王室】国王チャールズ3世とカミラ女王の戴冠式
▽5月8日(月曜)
【英王室】ロンドン郊外のウィンザー城で7日(日曜)夜、チャールズ国王(74)の戴冠記念コンサート、米英の人気アーティストらが熱演。7日には各地で市民らが路上でパーティー
▽5月9日(火曜)
【英王室】チャールズ英国王の戴冠を祝う一連の行事の最終日の8日、英国各地で市民らが奉仕活動。ウィリアム皇太子一家ら王室メンバーもボランティア活動で市民と交流

¶ 関連サイト

宮内庁HP

【天皇皇后両陛下のご日程 令和5年(4月~)】
【秋篠宮家の御日程 令和5年(4月~)】

メディア

皇室ウイークリー 産経新聞
皇室7days 朝日新聞DIGITAL

これまでの【皇室の話題】

▽天皇・皇族を縛る〝掟(おきて)〟とは(2023年4月28日~5月4日)
▽雅子皇后の苦悩とは何か、どこから来るのか(2023年4月21日~27日)
▽短期と長期 どちらがほんとの「お得」なの?(2023年4月14日~20日)
▽皇室の生きづらさとは(2023年4月7日~13日)
▽天皇の「お得感」の歴史的な変遷とは(2023年3月31日~4月6日)
▽天皇・皇室についてもやもやした時に考えてみること(2023年3月24日~30日)
▽愛子内親王の結婚報道で迷惑するのは誰か(2023年3月17日~23日)
▽天皇、皇族の行動を決めるのは前例と理念(2023年3月10日~17日)
▽天皇は男系男子でなければだめなのか(2023年3月3日~10日)
▽国際関係での皇室の「お得感」とは(2023年2月24日~3月2日)
▽皇室の存在の「お得感」とは何か(2023年2月17日~23日)
▽皇室の情報発信 何を伝えるのか(2023年2月10日~16日)
▽あるべき姿、役割をどうとらえるのか(2023年2月3日~9日)
▽佳子内親王が願う「幅広い選択肢を持てる社会」(2023年1月27日~2月2日)
▽愛子内親王の和歌に注目集まる(2023年1月20日~26日)