秋篠宮夫妻がベトナムを公式訪問した。天皇、皇族が外国を訪問する意味は何だろう。それは、「あなたと私は同じ人間として同じ価値を良いと思い、同じ美しさを楽しみますよね」ということを、日本の日本人の代表として確認することだ。その点が、対立する利害を妥協して折り合う政治的な「外交」との違いだと思う。
¶ 皇室は外国を訪問して双方に共通する価値観を確認する
天皇、皇族の外国訪問は、相手国にとっては、それだけでたいへん価値があることだ。英国からチャールズ国王が来るのと、スナク首相が来るのを比べるのはたいへん失礼だが、スナクさんという名前(Rishi Sunak)を知らない人もいるのではないか。天皇、皇族の外国訪問では、定番の外交儀礼を含めたさまざまな場面で、双方の持つ共通の価値観を確認し、敬意と親密感を持つことが意義だろう。ではそこで、どのような価値を示すのか。皇室の人たちは大きな責務を背負っている。
§ プログラムは変わり映えがしない
秋篠宮夫妻のベトナム訪問は外交関係樹立50周年を期した友好親善が目的。様々な行事が組み込まれたが、2017年に上皇夫妻が訪問しており、それと比べて代わり映えはしない。
具体的には、定番の儀礼行事(歓迎式典、国家主席と昼食、ホー・チ・ミン廟で供花)がある。
今回の訪問の目的に沿った行事(外交関係樹立50周年の記念式典、記念オペラ鑑賞)があり、友好確認の行事(日本への元留学生・実習生と懇談、日本がODAで支援する日越大学を訪問)がある。在留邦人との懇談も皇族としては定番の行事。
ベトナムとの関係の特別な事情としては「元日本兵の家族との面会」があった。
このほか、秋篠宮は「ハノイの自然科学大学生物学博物館を視察」、紀子妃は「障害者雇用に力を入れている企業への訪問、日本の絵本をベトナム語に翻訳し出版しているグループとの懇談」があった。夫妻それぞれの「得意分野」に配慮した設定だ。
こうしてみてくると、一番皇族らしいのは紀子妃のプログラムだと思えてくる。
§ お互いが大切にするもの
紀子妃の「日本の絵本をベトナム語に翻訳し出版しているグループとの懇談」は、両国の国民は同じように、子どもを大切にし、豊かな情操をはぐくもうとしていますよ―ということを確認する行事だ。人間として、平和を愛し、自分を大切にするとともに互いを尊重して生きる、そうありたいと思っていますよ、と。
「障害者雇用に力を入れている企業への訪問」では、紀子妃はベトナム語の手話を交えて会話したらしいので、本領発揮だろう。人にはそれぞれ、個性があるが、それを認めて助け合って生きていくことが幸せですよね、という思いを共有している。
両国の国民は、同じく人間で、なかよくできますよ、と確認するのが天皇、皇族の訪問の意味といってよいだろう。その時、天皇、皇族は日本人、日本の国を代表している。
§ 定番と延長線上と
2017年の上皇夫妻のベトナム訪問を振り返ると、国家主席夫妻との会見・晩餐会、国会議長夫妻、共産党書記長夫妻との面会、ホー・チ・ミン廟への供花のほか、在留邦人、青年海外協力隊員との面会など、主要行事は今回の秋篠宮夫妻と重なる。
2017年の訪問時、上皇夫妻の特徴的な行事として「元残留日本兵家族との面会」があった。この面会や要路との交流の中で、お互いに過去の歴史を直視して、それを正しく伝えていくのが大切と思っていますよね、そして、歴史的に生じた困難を乗り越えて、豊かで平和な社会をつくろうと思っていますよね、と確認するわけだ。
秋篠宮夫妻の今回のプログラムは、2017年を踏襲した域を出ていないし、紀子妃の絵本グループとの懇談も、2017年の訪問の際に上皇后が関係者を励ましており、その延長線上ともいえる。
■ベトナムご訪問(平成29年) – 宮内庁 (kunaicho.go.jp)
§ 〝代表〟の振る舞いを見守ろう
人間の根源的な価値観は、時間の経過の中でそう大きく変わるわけではない。だから外国訪問の際のテーマが変わり映えしないのは当たり前ともいえる。
だが、変わるところは刻々と変わっている。先だっての内閣改造で副大臣、政務官に女性が一人もいなかったことが話題となった。一昔前なら、大きな違和感を持たれなかっただろう。
日本の〝代表〟として、天皇、皇族は外国でどんな価値観を示すのか。おおきな責務を背負っている。私も私なりに考えつつ、〝代表〟の振る舞いを見守りたい。
(2023.9.24 皇室王室勉強家・以出江 凡)
¶ 日誌
天皇 皇后 愛子内親王
▽9月15日(金曜)
【天皇】リビアで発生した洪水被害を受け、天皇が14日に同国首脳評議会議長にお見舞いの電報を送ったと宮内庁が15日に発表
▽9月16日(土曜)
【天皇・皇后】第42回全国豊かな海づくり大会の式典出席などのため、羽田発の特別機で北海道入り。釧路市の釧路湿原野生生物保護センターを視察
▽9月17日(日曜)
【天皇・皇后】第42回全国豊かな海づくり大会の式典に出席。天皇があいさつし、2人でマツカワの稚魚やホッカイエビを放流(北海道・厚岸町の厚岸漁港)。同漁港内にあるカキ人工種苗生産施設を訪問
▽9月20日(水曜)
【天皇・皇后・愛子内親王】第70回日本伝統工芸展を鑑賞。日本工芸会の主催で、総裁を務める佳子内親王が出迎えた(東京都中央区の日本橋三越本店)
秋篠宮家
▽9月15日(金曜)
【秋篠宮・紀子妃】ベトナム公式訪問を前に記者会見秋篠宮は「友好親善関係の促進に役に立ち、寄与できることがあれば、うれしい」と述べた(東京・元赤坂の赤坂御用地にある赤坂東邸)
▽9月19日(火曜)
【悠仁親王】新型コロナウイルスに感染から体調が回復し、19日から筑波大付属高への登校を再開したと宮内庁が発表
▽9月20日(水曜)
【秋篠宮・紀子妃】(ベトナム公式訪問)首都ハノイのノイバイ国際空港に政府専用機で到着
▽9月21日(木曜)
【秋篠宮・紀子妃】(ベトナムを公式訪問中)国家主席府でボー・ティ・アイン・スアン国家副主席主催の歓迎式典。ベトナム建国の父ホー・チ・ミンが眠る廟を訪れて供花、第2次大戦で駐留した元日本兵が戦後、現地に残してきたベトナム人の家族と首都ハノイのホテルで面会、日本とベトナムの外交関係樹立50周年記念式典に出席
▽9月22日(金曜)
【秋篠宮・紀子妃】(ベトナムを公式訪問中)首都ハノイの国家主席府でボー・バン・トゥオン国家主席主催の昼食会に出席。ハノイにある日本人学校で小中学生と交流、日本がODAで支援する日越大学を訪問。宿泊先ホテルで、留学生や技能実習生として日本で暮らした経験があるベトナム人、両国間で活躍する若者ら約50人と懇談。夜はオペラハウスを訪れ、外交関係樹立50周年を記念して作られたオペラ「アニオー姫」を鑑賞
▽9月23日(土曜)
【秋篠宮・紀子妃】(ベトナムを公式訪問中)秋篠宮はハノイの自然科学大学生物学博物館を視察。紀子妃は障害者雇用に力を入れている企業を訪問、ホテルで日本の絵本をベトナム語に翻訳し出版しているグループと懇談。夫妻は午後、中部ダナンに移り、世界遺産に登録されているホイアン旧市街を巡回
【佳子内親王】第10回全国高校生手話パフォーマンス甲子園出席などのため鳥取県入り。1泊2日の日程。この日は鳥取市西郷地区の「いなば西郷工芸の郷」を視察
宮家
▽9月20日(水曜)
【三笠宮の寛仁親王の信子妃】住まいの宮内庁分庁舎(東京都千代田区)で負傷し、左足くるぶしと腰椎を骨折、東京都新宿区の慶応大病院に入院したと宮内庁が発表
▽9月22日(金曜)
【三笠宮の寛仁親王の信子妃】入院中の慶応大病院(東京都新宿区)で、骨折した左足くるぶしの手術を受けたと宮内庁が発表。同日午前に全身麻酔で手術を受け、骨折部分をチタンで固定した。無事終了した。
一般
▽9月15日(金曜)
【英王室】競売大手サザビーズは14日、英国の故ダイアナ元皇太子妃がチャールズ皇太子(現国王)との婚約時代に愛用していたセーターが、114万3千ドル(約1億6900万円)で落札されたと発表した。5万~8万ドルとした予定落札額の10倍以上
▽9月16日(土曜)
【スウェーデン王室】カール16世グスタフ国王(77)が15日、在位50年を迎え、首都ストックホルムで祝賀行事。誕生日は1946年4月30日
▽9月20日(水曜)
【英王室】チャールズ国王とカミラ王妃が20日、フランスを公式訪問
▽9月21日(木曜)
【英王室】チャールズ英国王は21日、フランス上院で演説し、ロシアの侵攻を受けたウクライナの勝利に向け、英仏両国の団結を訴えた。英国王がフランス上院で演説するのは初めて
¶ 関連サイト
宮内庁HP
【天皇皇后両陛下のご日程 令和5年(7月~)】
【秋篠宮家の御日程 令和5年(7月~)】
メディア
皇室ウイークリー 産経新聞
皇室7days 朝日新聞DIGITAL
【皇室の話題】
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▽短期と長期 どちらがほんとの「お得」なの?(2023年4月14日~20日)
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▽天皇・皇室についてもやもやした時に考えてみること(2023年3月24日~30日)
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▽佳子内親王が願う「幅広い選択肢を持てる社会」(2023年1月27日~2月2日)
▽愛子内親王の和歌に注目集まる(2023年1月20日~26日)