【皇室の話題】皇后が皇居で養蚕をする意味はなんだろう(2023年7月14日~20日)

         


 
 皇居の紅葉山御養蚕所で、皇后の御養蚕納めがあった。近代に皇后が養蚕を始めたのは昭憲皇太后からである。奈良時代にも正月に皇后が蚕神を祀る儀式があったという。明治4年に始まった(復活した)皇后の養蚕の背景に込められていた意味は何だったのだろう。養蚕作業という皇室の活動は人々に何を伝えたのだろう。

¶ 皇室が養蚕をすることの意味と象徴性

 昭憲皇太后による養蚕に込められた意味は、日本の近代化の推進であった。どのようにしたら近代化が推進されるかを国民が感じとる一助になっただろう。現在、その意味はほとんどない。ただ皇居での養蚕には新たな意味が生まれているのかもしれない。

§ 近代化推進のパートナー

 昭憲皇太后は日本女性の洋装化を促進した人である。また宮中で養蚕を始めた(復活した)人でもある。これは、どちらも日本の近代化と密接な関係があった。というより、日本の近代化に必要なことだったのだ。
 それを実行した昭憲皇太后は、近代化を推進する明治天皇の心強いパートナーだったといえるだろう。

§ 女性の洋装は政治問題

 昭憲皇太后は日本女性の洋装化の象徴的存在だった。
 洋装化を推進したのは伊藤博文だ。伊藤は日本女性の洋装化は「政治問題」だと考えていた。
 女性が洋装しないと西洋人は日本を対等な文化国家と認めず、不平等条約の解消もできないと考えていたと思う。昭憲皇太后は洋装化の牽引役となった。
(伊藤が洋装を想定したのは皇后はじめ女性皇族、顕官の夫人や女性教師など、外国人と接する女性たちだけで、洋装は庶民には広がらなかった。筆者の祖母は二人とも、戦後に亡くなるまで着物を着用していた)
 
 ■刑部芳則「明治の皇室と服制」

§ 養蚕は外貨獲得産業

 宮中での養蚕は当然、国内各地での養蚕の奨励になる。背景にあったのは日本の産業振興の方針である。
 明治の日本にとって、生糸は外貨獲得のための重要な輸出品だった。政府はそのため積極的に蚕糸業を保護、奨励。日本は明治時代後半に世界最大の生糸輸出国となり、生糸が対外進出を支えたともいえるだろう。
 昭憲皇太后は1987年1月、洋装と国産服地の使用を奨励する「思召書」を出した。その中で、国産品を用いれば、商工にも益のあること多かるべく、と述べ、経済的な側面に触れている。
 養蚕を始めるに当たって相談したのが渋沢栄一だ。渋沢の守備範囲が広かったとも考えられるが、宮中での養蚕開始には当初から産業振興の観点があったことが想像される。
 
 ■村上毅「我が国蚕糸業の歴史と近代化過程における役割」
 ■植木淑子「昭憲皇太后と洋装」
 ■宮中御養蚕と渋沢栄一/深谷市ホームページ

§ ジェンダーと世代のフリー

 宮中での養蚕が近代化促進に果たした役割は、いまやない。
 平成の時代にすでになかったと思うが、平成の皇后は、自ら桑の木を伐り、蚕に葉を与え、まぶしに移して収穫する姿を公開し、生産した生糸は正倉院の御物修復に供されたと報じられた。
 そうした姿が、皇室の勤勉さや労働を喜ぶ心、文化継承への願いなどを象徴的に表していた面があると思う。
 令和になってからは、養蚕は雅子皇后ひとりの営みとして伝えられるのではなく、養蚕所に天皇や愛子内親王が入って一緒に作業している姿が公表されている。
 令和の皇室は養蚕を通して、ジェンダーや世代間の垣根の取り払いを象徴的に伝えているのかもしれない。
 

 
 ■展覧会概要/皇后陛下古希記念特別展 皇后陛下のご養蚕と正倉院裂の復元(2005年3~4月) – 宮内庁

§ 活動の象徴的効果に留意

 昭憲皇太后の養蚕には背景に明治政府の意図があった。国民は、皇室の活動から象徴性を受け取らなくてもいいわけだが、皇室の活動する姿は社会に浸透しやすい画像である。企図された意味はあるのか、社会に対してどのような象徴的効果があるのか、気にしておいてよいだろう。
 (2023.7.22 皇室王室勉強家・以出江 凡)

¶ 日誌

天皇 皇后 愛子内親王

▽7月19日(水曜)
【皇后】今年の養蚕作業の締めくくりとなる「御養蚕納の儀」。今年取れた繭からできた生糸の束を供え拝礼(皇居内の紅葉山御養蚕所)

秋篠宮家

▽7月14日(金曜)
【秋篠宮・紀子妃】福岡市を訪れ、水泳の世界選手権の開会式に出席
▽7月15日(土曜)
【秋篠宮・紀子妃】福岡市で、背UI英世界選手権のアーティスティックスイミング競技を観戦した後、帰京
▽7月17日(月曜・海の日)
【佳子内親王】障害者や健常者が一緒にダンスや音楽を楽しむ「ドレミファダンスコンサート」を鑑賞(東京都渋谷区の東京体育館)
▽7月19日(水曜)
【秋篠宮・紀子妃・佳子内親王・悠仁親王】研修旅行で来日しているパラグアイの高校生20人や教員らと面会(東京・元赤坂の赤坂御用地にある宮邸)

上皇 上皇后

▽7月19日(水曜)
【上皇・上皇后】フランスの画家、アンリ・マティスの絵画展を鑑賞(台東区の東京都美術館)

宮家

▽7月18日(火曜)
【高円宮の久子妃】母鳥取二三子(とっとり・ふみこ)さんが18日午前9時49分、老衰のため入居していた東京都内の施設で死去した。96歳

宮内庁

▽7月14日(金曜)
【宮内庁】宮内庁職員などを名乗り、「皇室に献上するため」として文書で物品の提供を依頼する事案が報告されたと発表、注意を呼びかけ。「宮内庁または職員が皇室への物品の献上を一般の方に依頼することはない」

一般

▽7月15日(土曜)
【オランダ王室】政府は14日、ルッテ首相率いる連立政権が崩壊したことに伴う下院(定数150)選を11月22日に実施すると明らかにした。ルッテ政権は新内閣発足まで暫定政権を務める

¶ 関連サイト

宮内庁HP

【天皇皇后両陛下のご日程 令和5年(7月~)】
【秋篠宮家の御日程 令和5年(7月~)】

メディア

皇室ウイークリー 産経新聞
皇室7days 朝日新聞DIGITAL

【皇室の話題】

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